野の百合、空の鳥

アニメ・漫画・文学を「読む」

【俺ガイル結1】感想・考察「言葉」にならない「選択」

はじめに どうして『結』を読むのだろう。 『俺ガイル』は一度完結した物語だ。一度結ばれた物語をもう一度ほどいて結び直す、それにいったい何の意味があるのだろうか。 結衣が好きだから、「結衣エンド」が見たいから、「本編」に納得していないから……。そ…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑧「新世界より」/「アリアドネの糸」【10話】

はじめに 前回、前々回とやや長い記事がつづいた。 そこで今回はやや短めに、ゆっくり10話だけで立ち止まってみることにする。 今回は「新世界より」と「アリアドネの糸」、この二つのモチーフを読み解く。

【チェンソーマン 考察】食べるという盲目 ――『チェンソーマン』における「イメージ」と「まなざし」――

※以下、『チェンソーマン』最終話までの重大なネタバレをふくみます。ご注意ください。

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑦物語にできることは ――「地下」・「状況」・「コミットメント」――【7~9話】

はじめに 「地下」という場所 前回から引き続き、『ピンドラ』と村上春樹(作品)との関連について、今回はとりわけ「地下」というテーマを中心に据え、考察する。 村上春樹は「地下」について以下のように述べている。 アンダーグラウンド (講談社文庫) 作…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑥村上春樹の影響──『かえるくん、東京を救う』を中心に──【7~9話】

1.0. 『ピンドラ』と村上春樹のつながり 本棚に並ぶ「カエルくん~を救う」(『輪るピングドラム』第9駅、ピングループ・MBS、2011年) 陽毬「あの、『かえるくん、東京を救う』って本はどこにありますか?」 (『輪るピングドラム』第9駅「氷の世界」より)…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑤「そらの孔分室」とは何か【7~9話】

1.0. そらの孔分室 「そらの孔分室」(『輪るピングドラム』第9駅、ピングループ・MBS、2011年) 「ようこそ、中央図書館そらの孔分室へ」 (『輪るピングドラム』第9駅「氷の世界」より) 水族館の長いエレベーターを降りると図書館であった。図書館の奥に…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』④「氷の世界」とは何か【7~9話】

1.0. 「氷の世界」 「氷の世界」(『輪るピングドラム』第9駅、ピングループ・MBS、2011年) 『ピンドラ』第9駅のサブタイトルは「氷の世界」である。 しかしなぜ「氷の世界」なのだろうか? 第9駅は、べつに氷のある場所に行く話ではないし、「氷の世界」と…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』③カレーを食べるとはどういうことか?【4~6話】

1.0. どうしてカレーを食べるのか? 『ピンドラ』のカレー(『輪るピングドラム』第3駅、ピングループ・MBS、2011年) どうして『ピンドラ』ではカレーを食べるのだろう? 『ピンドラ』には、やたらとカレーが出てくる。第3話のサブタイトルは「そして私を華…

【ファイアパンチ考察】どうして人は死ぬと映画館に行くのか?

0.0. 死んだら映画館に行く? 人は死んだら映画館に行く(藤本タツキ『ファイアパンチ』第4巻 第35話より, 集英社, 2017) 人は死んだら映画館に行く。『ファイアパンチ』では、そういうことになっている。 実際、47話で死にかけたアグニは映画館に行くし、…

2020年をふりかえって

0.0. はじめに 0.1. 「絶望」 「私は絶望している」と書きつけたとしましょう。 次の瞬間、私は吹き出してしまいます。というのは、そこに書きつけられた「絶望」が、私が感じている当の絶望からあまりにもかけ離れているからです。 そこに刻まれた「絶望」…

終わりなき俺ガイル ――来るべき読解のために――

0.0. はじめに 本稿では、主に筆者による俺ガイル最終回考察に註釈を加えながら、これからの俺ガイル読解の指針を示してゆく。そのためまず筆者による俺ガイル最終回を(少なくとも「Ⅰ. 『俺ガイル完』は完結した。」と「∞. おわりに ――これはおわりではない…

【俺ガイル完 12話】考察・解説「終わったのなら、また始めればいいじゃない」

Ⅰ. 『俺ガイル完』は完結した。 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』は最終回を迎え、完結した。 当然、いくらかの疑問が残った。例えば、以下のような疑問だ。 奉仕部の「鍵」を渡した意味とは? 以前掛けていなかった眼鏡を掛けたことが意味す…

【俺ガイル完 11話】考察・解説「言葉」という「パルマコン」【後編】

【前編】 Ⅴ. 雪ノ下雪乃との関係 ⅰ. 回りくどいやり方 ⅱ. 「そういう方法」 ⅲ. 建前 ⅳ. 「感情」は言わない ⅴ. 言葉への批判意識 ⅵ. 「言葉」という「殺害行為」 ⅶ. 「言葉」という「パルマコン」 Ⅵ. 【追記9/20】由比ヶ浜との場面と雪乃との場面の比較 ⅰ. …

【俺ガイル完 11話】考察・解説「待つ」ということ【前編】

Ⅰ. はじめに 「待たなくていい」と言われ、驚くような表情を見せる由比ヶ浜(『俺ガイル完』11話, 渡航, 小学館, やはりこの制作委員会はまちがっている。完, TBS, 2020) 率直に言って、11話も疑問の連続であった。 公園で八幡が「お前はそれをまたなくてい…

【俺ガイル完 10話】考察・解説 「代償行為」と「偽物/欺瞞」

Ⅰ. はじめに 「……だって、あの子の願いは、ただの代償行為でしかないんだから」 (⑭287頁)*1 「代償行為」。その言葉に八幡は穿たれる。彼はそこで、また前と同じあやまちを、否、「今までよりなお悪い」あやまちを犯していると気づく*2。 では「代償行為」…

【俺ガイル完 9話】考察・解説 「エプロン」と「コーヒー」の「解釈」について

Ⅰ. はじめに ⅰ. あらすじ 雪乃に「由比ヶ浜さんのお願いを叶えてあげて」と言われた八幡は、由比ヶ浜に願い事を尋ねる。 雪乃の手伝い、小町のお祝いなど……、「したいこと」を挙げていった由比ヶ浜は最後に「ヒッキーのお願いを叶えること」を願う。 手始め…

【俺ガイル完 8話】考察・解説 「紛い物」/「痛いから」/「終わり」

Ⅰ. はじめに ⅰ. あらすじ 部長会としてプロムに協力するよう葉山に依頼するが断られる八幡。 仕方なく浜辺でポスター撮影をした八幡は、由比ヶ浜とともに製作したサイトを陽乃から雪ノ下母へリークしてもらうよう打診する。 情報が伝わり、雪ノ下母が学校へ…

【俺ガイル完 7話】考察・解説 「言葉」のジレンマ

Ⅰ. 「伝えるのが下手すぎる」 「大丈夫、ちゃんとわかってるから」 「……わかってないよ。あたし、ちゃんとしようと思ってる。これが終わったら……、ちゃんとするの。……だから、ゆきのんのお願いは叶わないから」 「……そう。私は、あなたのお願いが叶えばいい…

【俺ガイル完 6話】考察・解説 「終わらせないで」という逆説 ――二元論の限界としての由比ヶ浜――

Ⅰ. はじめに ずるいのも、言い訳なのも、嘘なのも、本当はわかってるけど。 けど、もう少しだけ、この時間を続けさせてください。 ちゃんと終わらせるから。 もしかしたら、なんて願ったりしないから。 知らないうちに溢れてきそうな涙もちゃんと止めるから…

【俺ガイル完 5話】考察・解説 八幡の「責任=応答可能性」について

今回は「責任」について考える。「責任」について考えてゆくと八幡がここですでに「まちがい」を犯していることがわかり、さらに掘り下げると「責任」が俺ガイルの構造上必然的な問題であることがわかるだろう。

【俺ガイル完 4話】考察・解説 「共依存」とは何か ――「本物」との距離――

共依存は『俺ガイル完』において非常に重要なテーマだ。 しかし共依存という言葉はいかんせんわかりにくい。その言葉自体は聞いたことがあるが、内実を説明するのは容易ではない。 今回はその共依存という言葉から出発して、4話を中心に俺ガイルの核心に迫っ…

【俺ガイル完 3話】考察・解説 一色いろはが「小悪魔」の奥に秘めたもの

「はい……、気を付けます」。そう言って一色いろはは珍しく落ち込んだ表情を見せる。 かと思えば、次の瞬間には「ですよね!」と満面の笑みで冗談めかす。しかし今度ばかりは本当に反省しているのか、「冗談です。……ちょっとマジで気を引き締めます」と真面目…

【俺ガイル完 2話】考察・解説「鍵」に「触れたことがない」ことの意味

Ⅰ. 「今日まで、その鍵には一度も触れたことがない。」 完2話サブタイトル(『俺ガイル完』2話, 渡航, 小学館, やはりこの制作委員会はまちがっている。完, TBS, 2020) 2話のサブタイトルは「今日まで、その鍵には一度も触れたことがない。」だ。 このサブ…

【俺ガイル完 1話】考察・解説「諦める」ことの意味

Ⅰ. 雪解け 俺ガイル完OPには、結末が「雪」ではなく「雨」であることを望む趣旨の詩がある。 これはもちろん、物理的な雪解けも意味しているが、同時に雪乃の問題がほどけてゆくこと、ひいては奉仕部の問題が解消していくことを暗示している。 だからOP映像…

【俺ガイル11巻】考察・解説「だから違和感について考え続ける」

Ⅰ. はじめに ⅰ. 「違和感」を考え続ける物語 やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。11 (ガガガ文庫) 「あー、なんか違和感っていうか」 言葉にしてみると、それは案外すっきり腑に落ちた。 ずっとついて回っていたものだ。 ふとした瞬間に意識してしまう…

【俺ガイル10巻】考察・解説 「そうして、道化は見抜かれる」

本記事では俺ガイル10巻について考察・解説を行う。 俺ガイル10巻については、主に以下のような点が論点になると考えられる。 「手記」とは何なのか?何のためにあるのか? 陽乃の「見つけてくれることを、かな」というセリフはどういう意味か? なぜ葉山隼…

【チェンソーマン考察】『1984』(ジョージ・オーウェル)との関連について

本記事では、『チェンソーマン』において銃の悪魔が出現した「1984年」という年(この年号が浮かび上がった経緯については後述)が意図的なものであると仮定した上で、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』と『チェンソーマン』との関連を考える。 具体的に…

【石浜真史OP・ED考察 】「不気味なもの」(フロイト)と「異質なもの」(バタイユ)の視点から

Ⅰ. 石浜真史と「不気味なもの/異質なもの」 ⅰ. 「不気味/異質」? さっそくだが何枚か画像を見ていただきたい。 石浜OPにおける「不気味/異質」なカット(上:『PSYCHO-PASS 2』(サイコパス製作委員会,2014)OPより、中:『PERSONA5 the Animation』(PERSONA…

『俺ガイル』9巻 考察・解説 だから「本物」を求め続ける

Ⅰ. 「欲しいものがあったから」 欲しいものがあったから。 たぶん、昔からそれだけが欲しくてそれ以外はいらなくて、それ以外のものを憎んですらいた。だけど一向に手に入らないから、そんあものは存在しないとそう思っていた。*1 つまるところ9巻は、八幡が…

『俺ガイル』8巻 考察・解説「こうして、比企谷八幡はまちがえる」

Ⅰ. 「まちがい」 自分が何かまちがえたのではないかという、その疑念だけが残った。 (渡航『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。⑧』p.334より) 『俺ガイル』8巻のキーワードは「まちがい」だ。 7巻では「大事だから、失いたくないから」、だから「変…