野の百合、空の鳥

アニメ・漫画・文学を「読む」

アニメ

公転する太陽──山田尚子『きみの色』における惑星とポエジーについて

※本記事はネタバレを含みます。 “太陽” としてのトツ子 “公転” するきみとルイ 回転する “惑星” たち 星の友情 “公転” する “太陽” ポエジーの “宇宙” おわりに:太陽といっしょになった海 p.s. “太陽” としてのトツ子 『きみの色』は、トツ子が “太陽” であ…

アニメーション的快楽を求めて——『小市民シリーズ』第2話における “リアリティ” について

はじめに——意味から逃れて 図01:直線的な画面 たとえば以上のような直線的な構図に、1話から引きつづき、境界線のメタファーを見出すことは可能だろうか? なるほどたしかに、ここでも小鳩と小佐内は、光の境界線やコンクリートの境界線、それから窓ガラス…

越境のための分断――『小市民シリーズ』第1話における “線” について

はじめに 1 分断としての “線” 1.1 「狐」と「狼」の分断 1.2 「探偵」と「犯人」の分断 1.3 他者との分断 幕間:「小市民」としての “線” 2 越境のための “線” 2.1 「無能感」としてのフレーム 2.2 「全能感」としての越境 2.3 小さな逸脱としての越境 2.4 …

「橋」渡しをするとはどういうことか—— 『キズナイーバー』第7話の演出について

1. 「交通」のメタファー 橋を架けるということが、心が「通う」ことのメタファーであるというのは、たとえばフランス語の« communication » が ——むろん「コミュニケーション」の謂いである——、その昔「交通」と訳されていたことからも伺える。 そうでなく…

2023年おもしろかったアニメ——2023年をふりかえって①

はじめに——イメージを眼差すこと Vilhelm Hammershøi, Interior, 1899, Oil paint on canvas, 64.5×58.1, Tate. 具体的な一枚から始めよう。 デンマークの画家ヴィルヘルム・ハマスホイの描く室内は、いつもどこか〈暗さ〉を抱えている。閉ざされた扉や振り…

2023年春アニメ感想

はじめに 数をこなせばよいというわけでもないと前置きして、それでも数多く見ることの報いとして、相応の出遭いがあることは強調したい。 都度、思いがけない出遭いを積み重ねることが生きるということなら、アニメを見る体験のほうがむしろ、生きることに…

名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)感想——テクノロジー、類型、様式美

はじめに コナン映画、おもしろすぎてひっくり返った。 検索から来られる方を想定して言うと、以下に記す感想は、もしかしたら求めている「感想」とは違うかもしれない。たとえば私は、黒ずくめの幹部の正体は実はコイツで~とか、実は原作の第〇〇話が伏線…

グリッドマンユニバース 感想——あるいは虚構/フィクションとその反省について

はじめに 「人間は虚構を信じられる唯一の生命体なんだよ」 『グリッドマンユニバース』が虚構賛歌であることは、おそらく誰の眼にも明らかだろう。うろ覚えだが、上記のようなセリフがあり、それが今作を象徴していたと思う。 が、私はこのセリフに少々面を…

「ふたり」の居場所——『彼が奏でるふたりの調べ』小考

はじめに 左右には元来、さまざまな意味が持たされてきた。 馴染み深いのは着物だろうか。着物はふつう、「右前」に着る。「左前」は死者の着方だからだ。 あるいはロベール・エルツ『右手の優越』を持ち出すまでもなく、聖なる右側、俗なる左側、という観念…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』最終回「輪るピングドラム」とは何か【24話】

はじめに 私は運命って言葉が好き。 (『輪るピングドラム』24th stationより) たった一言がこんなにも重い。 「運命」を呪い、そして「運命」に呪われた「何者にもなれない」子どもたち。その「選ばれなかった」子どもたちが、ようやく「運命」を受け入れ…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑮『ピンドラ』はセカイ系か?【21-24話】

はじめに 〈セカイ系〉っていう言葉がある。 定義としては、東浩紀『ゲーム的リアリズムの誕生』にあるような「主人公と恋愛相手の小さく感情的な人間関係(「きみとぼく」)を、社会や国家のような中間項の描写を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終…

2022夏アニメ40本見た感想

はじめに タイトル通り、完走したアニメ40本見た感想を記す(なお、『うたわれるもの』や『シャドウバース』など、部分的に見たものもあるが、前者は前作を忘れすぎていてもったいないと思って視聴をやめ、後者は諸事情によりピックアップして見た)。 ※感想…

【劇場版ピンドラ後編 感想】「きっと何者かになれる」

※ネタバレ注意。本記事は劇場版ピンドラ前編+後編のネタバレ、およびアニメ放映版本編のネタバレを含みます。 ※また、筆者は一度しか劇場版を見ておらず、記憶だけを頼りに書いているため、本編と齟齬をきたしている可能性があります。 ※基本的には、劇場版…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑭「きっと何者にもなれない」とはどういうことか【19-20話】

はじめに 19-20話は、陽毬の過去編がメインの話となっている。 だが例のごとく、過去編というよりは、そこで語られている内実のほうが重要である。とくに、19-20話では「選ばれない」「きっと何者にもなれない」「氷の世界」「生存戦略」「運命の果実をいっ…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑬こどもブロイラーとは何か——透明な存在の不透明な内実【17-18話】

0.0. こどもブロイラーとは何か——設定上の回答—— こどもブロイラー(『輪るピングドラム』18th station, ピングループ・MBS, 2011年) 「ここはこどもブロイラーだよ」 「こどもブロイラー?」 「いらない子どもたちが集められる場所」 […] 「ここで僕らは…

【劇場版ピンドラ前編 感想】「きっと何者にもなれないお前たち」から「きっと何者かになれるお前たち」へ

※ネタバレ注意。本記事は劇場版ピンドラ前編のネタバレ、およびアニメ放映版本編のネタバレを含みます。 ※また、筆者は一度しか劇場版を見ておらず、記憶だけを頼りに書いているため、本編と齟齬をきたしている可能性があります。 ※基本的にはアニメシリーズ…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑫「嫌だわ、早くすり潰さないと」の意味――「罪」編――【16話】

はじめに ——ピンドラをあらためて整理してみる—— ピンドラは桃果(モモカ)と眞悧(サネトシ)の代理戦争だ、とまとめてみることは、――とりわけ初見の人に——図式的な理解を与えるのには有効であろう。 つまり、桃果の意志を引き継いで「ピングドラム」を探そ…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑪「タワー」と「呪い」——時籠ゆりについて——【14~15話】

はじめに——「嘘つき姫」—— 14-15話は、主に時籠ゆりの話になっている。 とりわけ15話は、ゆりの過去が明らかになるとともに、桃果のもつ「運命の乗り換え」の能力とその代償の説明となっているという点で重要である。 そのほかにも細かい伏線はあるのだが、…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑩メリーさんの羊とは?【12~13話】

はじめに. 「メリーさんの羊」を中心に…… 12~13話で起こった出来事をまとめるのは簡単だ。つまり、陽毬がまた倒れて、眞悧がそれを助けた。それだけだ。 しかしながら、12~13話には、起こった出来事としてまとめられないエッセンス——それも非常に重要なエ…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑨「嫌だわ、早くすり潰さないと」の意味——「愛」編——【11話】

はじめに 今回はとりわけ真砂子の「愛」についてのセリフを検討したい。 というのは、それが真砂子の「愛」について語る数少ない機会だから、という理由もあるのだが、それよりも、『ピンドラ』が「愛」の物語であるからには、そのセリフは『ピンドラ』全体…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑧「新世界より」/「アリアドネの糸」【10話】

はじめに 前回、前々回とやや長い記事がつづいた。 そこで今回はやや短めに、ゆっくり10話だけで立ち止まってみることにする。 今回は「新世界より」と「アリアドネの糸」、この二つのモチーフを読み解く。

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑦物語にできることは ――「地下」・「状況」・「コミットメント」――【7~9話】

はじめに 「地下」という場所 前回から引き続き、『ピンドラ』と村上春樹(作品)との関連について、今回はとりわけ「地下」というテーマを中心に据え、考察する。 村上春樹は「地下」について以下のように述べている。 アンダーグラウンド (講談社文庫) 作…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑥村上春樹の影響──『かえるくん、東京を救う』を中心に──【7~9話】

1.0. 『ピンドラ』と村上春樹のつながり 本棚に並ぶ「カエルくん~を救う」(『輪るピングドラム』第9駅、ピングループ・MBS、2011年) 陽毬「あの、『かえるくん、東京を救う』って本はどこにありますか?」 (『輪るピングドラム』第9駅「氷の世界」より)…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑤「そらの孔分室」とは何か【7~9話】

1.0. そらの孔分室 「そらの孔分室」(『輪るピングドラム』第9駅、ピングループ・MBS、2011年) 「ようこそ、中央図書館そらの孔分室へ」 (『輪るピングドラム』第9駅「氷の世界」より) 水族館の長いエレベーターを降りると図書館であった。図書館の奥に…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』④「氷の世界」とは何か【7~9話】

1.0. 「氷の世界」 「氷の世界」(『輪るピングドラム』第9駅、ピングループ・MBS、2011年) 『ピンドラ』第9駅のサブタイトルは「氷の世界」である。 しかしなぜ「氷の世界」なのだろうか? 第9駅は、べつに氷のある場所に行く話ではないし、「氷の世界」と…

【ピンドラ 考察】ゼロから見直す『輪るピングドラム』③カレーを食べるとはどういうことか?【4~6話】

1.0. どうしてカレーを食べるのか? 『ピンドラ』のカレー(『輪るピングドラム』第3駅、ピングループ・MBS、2011年) どうして『ピンドラ』ではカレーを食べるのだろう? 『ピンドラ』には、やたらとカレーが出てくる。第3話のサブタイトルは「そして私を華…

終わりなき俺ガイル ――来るべき読解のために――

0.0. はじめに 本稿では、主に筆者による俺ガイル最終回考察に註釈を加えながら、これからの俺ガイル読解の指針を示してゆく。そのためまず筆者による俺ガイル最終回を(少なくとも「Ⅰ. 『俺ガイル完』は完結した。」と「∞. おわりに ――これはおわりではない…

【俺ガイル完 12話】考察・解説「終わったのなら、また始めればいいじゃない」

Ⅰ. 『俺ガイル完』は完結した。 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』は最終回を迎え、完結した。 当然、いくらかの疑問が残った。例えば、以下のような疑問だ。 奉仕部の「鍵」を渡した意味とは? 以前掛けていなかった眼鏡を掛けたことが意味す…

【俺ガイル完 11話】考察・解説「言葉」という「パルマコン」【後編】

【前編】 Ⅴ. 雪ノ下雪乃との関係 ⅰ. 回りくどいやり方 ⅱ. 「そういう方法」 ⅲ. 建前 ⅳ. 「感情」は言わない ⅴ. 言葉への批判意識 ⅵ. 「言葉」という「殺害行為」 ⅶ. 「言葉」という「パルマコン」 Ⅵ. 【追記9/20】由比ヶ浜との場面と雪乃との場面の比較 ⅰ. …

【俺ガイル完 11話】考察・解説「待つ」ということ【前編】

Ⅰ. はじめに 「待たなくていい」と言われ、驚くような表情を見せる由比ヶ浜(『俺ガイル完』11話, 渡航, 小学館, やはりこの制作委員会はまちがっている。完, TBS, 2020) 率直に言って、11話も疑問の連続であった。 公園で八幡が「お前はそれをまたなくてい…