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ゼロから見直す『輪るピングドラム』⑧「新世界より」/「アリアドネの糸」【10話】

はじめに

前回、前々回とやや長い記事がつづいた。

そこで今回はやや短めに、ゆっくり10話だけで立ち止まってみることにする。

今回は「新世界より」「アリアドネの糸」、この二つのモチーフを読み解く。

 

 

1.0. 「新世界より」

1.1. 故郷を想って

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アントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)

人質にとられた晶馬を取り戻すべく、病院内を地下へと下る冠葉。その道すがら、スピーカーから流れるのが、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」だ。

すっかり定番となったこの曲、ほかのアニメなどで聞いたことがある方も多いのではないだろうか。当ブログでも、『響け!ユーフォニアム』についての考察ですでに取り上げている。

『ユーフォ』のセリフに、ちょうど「新世界より」のとても簡単な説明があるので、そこから引用してみよう。

「新世界より」。ドヴォルザークがアメリカにいるときに、故郷のボヘミアを想って作った曲なんだって。まだ何もない、新しい世界で。

(『響け!ユーフォニアム』第3話より)

故郷を想ってノスタルジーに駆られて作った曲。だから後に、この曲に歌詞がつけられて「家路」や「遠き山に日は落ちて」といった曲としても親しまれた。

それだからなのか、この曲は下校のメロディ、あるいはいわゆる「17時の鐘」としてもひろく使われている。

 

1.2. ノスタルジーを刺激

では、なぜこの場面で「新世界より」が使われたのか。

それは真砂子が冠葉に昔を思い出してほしかったからだろう。日記を手に入れることもそうだが、ここでの真砂子局所的なねらいは、冠葉にコンタクトをとり、二人の過去を思い出してもらうためだった。

そのような過去を振り返るため、冠葉のノスタルジーを刺激する、そのために「故郷」を想わせる「新世界より」が用いられたのだろう。

それからこれは余談だが、心のうちをたどって過去へさかのぼるときに「地下」へ行く、という降下の運動から察するに、やはり「地下」というのは深層心理の位置づけにあることがここでも確認できる。

 

1.3. 「糸」

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「糸」をたどって階段を降りる冠葉(『輪るピングドラム』第10駅、ピングループ・MBS、2011年)

ただし、ここで「新世界より」が使われている理由はまだある。

「新世界より」は『銀河鉄道の夜』にも「新世界交響楽」として登場するのだ。注目すべきは、それが「糸のように流れて来る」と説明される点である。

この場面で冠葉は、手編みのセーターの「糸」をたどって晶馬のもとにたどり着いた。冠葉はまたその「糸」をたどるのと同じように、「新世界より」の旋律をたどって地下へと降りて行った。

要するに、ここで「糸のように流れて来る」と説明される「新世界より」を用いることで、それが縁語のようにして「糸」と響きあっているのである。

そして、その「糸」がまた、「アリアドネの糸」というたとえを導く。

 

2.0. 「アリアドネの糸」

2.1. テセウスとアリアドネ

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アンゲリカ・カウフマン《テセウスに捨てられたアリアドネ》(1774年)

ようやく晶馬のもとへたどり着いた冠葉に、真砂子は言う。

アリアドネーの糸をたどって、ここまでたどり着いた不実な勇者さまには、なにかご褒美をあげなくては」。

こちらももはや使い古された、月並みな表現かもしれないが、簡単に背景を説明しよう。

迷宮の奥のミノタウロスを倒すため、英雄テセウスが行きに扉に結び、帰りにそれをたどって帰ったその糸が「アリアドネの糸」だ。この糸を渡したのが、テセウスに恋した女神アリアドネなので、その名をとって「アリアドネの糸」というわけだ。

 

2.2. 女神のゆくさきは

もう説明も必要ないかもしれないが、冠葉がセーターのほつれた「糸」をたどって晶馬のもとにたどり着いたから、真砂子はそれを「アリアドネの糸」といったわけだ。

ちなみに、「ご褒美をあげなくては」と言って真砂子は冠葉にキスをするわけだが、神話の方でも、迷宮から脱出することに成功した英雄テセウスはアリアドネーを連れ帰ったので、褒美が女性であるという点では「元ネタ」に沿ってはいる。

冠葉を英雄に、自分を女神にたとえる、というのは真砂子らしいといえばらしいのだろうか。

しかし同じく「元ネタ」である神話に沿っていうならば、アリアドネはその後、デュオニュソスに奪われたとか、テセウスに捨てられたとかいわており、どうもあまり運命をたどったとはいえない……。

はたして真砂子は、このあとどんな運命をたどるのだろうか。

 

おわりに

今回はとても簡単に「新世界より」と「アリアドネの糸」について説明した。

べつに宣伝というわけではないけれど、今回書いたようなことのヒントは公式ガイドブックにも書いてあるので、『ピンドラ』ファンの方はぜひそちらも買われるとおもしろいと思う。

それにしても、間があいてしまったのでYoutubeの期間限定公開に追いつかれてしまった……。しかしそれならむしろあわせてアップしたほうがよいのでは?とも思うのだけれど、どうだろう。

あと、これくらいの長さのほうが、自分としても、読む側としてもよいのかなと思いました。

ともかく、次回ももう書き終えているので、近いうちに(一週間以内には)アップします。次回は真砂子の口癖「嫌だわ、早くすり潰さないと」について考えます。

それでは。

 

参考文献等

・幾原邦彦『輪るピングドラム』ピングループ・MBS、2011年。

・『「輪るピングドラム」公式完全ガイドブック 生存戦略のすべて』幻冬舎、2012年。

・宮沢賢治『銀河鉄道』青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/456_15050.html

交響曲第9番 (ドヴォルザーク) - Wikipedia

アリアドネー - Wikipedia

 

次回

 

 

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