Ⅰ. 「欲しいものがあったから」
欲しいものがあったから。
たぶん、昔からそれだけが欲しくてそれ以外はいらなくて、それ以外のものを憎んですらいた。だけど一向に手に入らないから、そんあものは存在しないとそう思っていた。*1
つまるところ9巻は、八幡が「欲しいもの」を口にするまでの物語だ。
うわべに意味を見出さない、そのはずだった彼、そして彼女が日常を演じ続けてしまう。そんな事態から脱却するまでの物語が9巻では描かれている。
本記事では、まず9巻以前の奉仕部の関係性の変化をまとめ、その後9巻を前半、中間、後半に分けて考察・解説する。全体を網羅的に書いた結果かなりの文字数になってしまったので、興味のある箇所から適宜参考にしていただきたい。
- Ⅰ. 「欲しいものがあったから」
- Ⅱ. 奉仕部のこれまでの「まちがい」(9巻以前まとめ)
- Ⅲ. 「うわべ」の関係をめぐるジレンマ(9巻前半まとめ)
- Ⅳ. 「本物がほしい」(9巻中間部まとめ)
- Ⅴ. 「本物」を求めて(9巻後半まとめ)
- Ⅵ. 物語の結末は……
Ⅱ. 奉仕部のこれまでの「まちがい」(9巻以前まとめ)
だが、流れていく時間の中で、この部室だけが凍てついていた。
あの生徒会選挙以来、何一つ変わることなく俺たちはこの部室で過ごしている。空虚と呼ぶほかない、違和感だけがあるやりとりを続け、薄氷を踏むような時間を過ごしている。*2
本題に入る前に、前巻までの状況を整理しておこう。そもそも彼ら彼女らはなぜこのような空気感になったのだったか?
結論から言えば、それは7巻と8巻を通じて奉仕部の三人が「うわべだけの関係」をつくりあげ、それを変わらないように維持させてしまったからだ。
ⅰ. 7巻でのまちがい(「理解してしまった」とは?)
まず7巻では、八幡が決して許さなかったはずの「うわべだけの関係」を認めてしまった。
ではなぜ八幡は「うわべ」を認めてしまったのだだろうか?それは八幡が奉仕部の関係性を葉山たちのグループの関係性に重ねて、その関係性を変えたくないと思ってしまったからだ。
もしも戸部が告白してしまえば、葉山たちのグループの関係性は決定的に変わってしまうだろう。したがってその告白を防いで、たとえうわべだとしても、それまでの関係性を保つという選択は無駄ではないということを八幡は「理解してしまった」。
そこで八幡は、自らが海老名さんに告白するという方法で関係性の崩壊を防ぐわけだが、そのことはむしろ奉仕部の関係性を変えてしまう。
まず八幡が「うわべに意味を見出さない」という心情を歪めて嘘をついたという点は、主に雪乃から反感を買う。そして八幡が代わりに告白するという人の気持ちを考えない方法が、主に由比ヶ浜の気持ちを揺さぶる。
こうして奉仕部の関係性は変わってゆく。
ⅱ. 8巻でのまちがい(「わかるものだとばかり、思っていたのね……」とは?)
8巻では、八幡と雪乃がお互い「わかってるつもりでいた」ために、今度は奉仕部の面々が「うわべだけの関係」を形成することになる。
八幡は「雪ノ下の真意はわからないまま」ということは認識しながらも*3、「傷ついてほしくない」という感情を押し付け、「妹のためじゃしょうがねぇな」と、自分ではなく他人からもらった動機で行動する。*4
その結果八幡は雪乃の生徒会長になりたいという真意をとらえ損ね、雪ノ下に「わかるものだとばかり、思っていたのね……」*5と言わせてしまう。そして最後の最後でようやく「俺が欲したのは、馴れ合いなんかじゃない。/きっと本物が欲しくて、それ以外はいらなかった」*6と勘づく。
こうしてまちがいにまちがいを重ねた奉仕部の面々は、「うわべだけの関係」を形成し、仮初の日常を演じ続けることとなった。以上が9巻までの奉仕部の関係性の変化の概要になる。
では9巻ではこの関係性はどのように変化していっただろうか?
Ⅲ. 「うわべ」の関係をめぐるジレンマ(9巻前半まとめ)
ⅰ. そもそも「うわべだけの関係」はいけないものなのか?
以上で見てきたように、問題は「うわべだけの関係」を継続させてしまっているところにある。ではこれにはどう対処すればよいのだろうか?
結論から言えば、八幡はやはり「うわべだけの関係」を否定し、「本物」を求めたわけだが、ちょっと待ってほしい。そもそも、なぜ「うわべだけの関係」を否定しなければならなかったのだろうか?
そもそも「うわべだけの関係」というのはいけないものなのだろうか?
ⅱ. 「うわべ」を取り繕うのはなぜ「無駄ではない」のか?
結論から言えば、別に「うわべだけの関係」自体はいけないものだとは言い切れない。というより、いけないとか、いけなくないといった性質のものではない。
そもそも八幡が「うわべ」を取り繕うのが「無駄ではない」と判断したのは、「うわべ」を取り繕えばそれまでの関係性を保てるかもしれないと思っていたからだ。
しかしながら実際はそうではなかった。葉山たちの関係性は「いつもと同じように見えて、それでも確かに違っている」*7わけだし、奉仕部の関係性も前述したように決定的に変わってしまった。
ⅲ. 「うわべ」を取り払うことは誰かを「傷つける」ことにつながる
そうして、遅ればせながら八幡は「うわべ」を取り繕ったこと、変わらぬ日常を演じ続けていることを後悔し始める。おそらく雪乃も由比ヶ浜も同じ気持ちだっただろう。
ではそんな「うわべ」なんで取っ払ってしまえばよいではないか?とも思う。しかしことはそう簡単にはいかない。
なぜなら「うわべ」を取り払うことは誰かを「傷つける」ことにつながるからだ。
ⅳ. 「傷ついてほしくない」から
このことは一色のもちこんだクリスマスイベントの依頼によってより顕著になる。
八幡は生徒会長になりたかったであろう雪乃に気を遣って一色の依頼を奉仕部として受けることは断る。これは端的に雪乃に「傷ついてほしくない」からだ。
もしも奉仕部がこの依頼を部として受けていたならば、「うわべ」を取り払える可能性はあったかもしれない。たとえ雪乃が傷ついたとしても依頼を受ければ日常を演じることをやめ、雪乃の本当の気持ちに八幡や由比ヶ浜が寄り添えたかもしれない。
ⅴ. 「うわべ」をめぐるジレンマ
しかし八幡はそれを選択できない。生徒会長選挙では「ただ傷ついてほしくない」という想いから雪乃や由比ヶ浜が生徒会長になることを防いだからだ。ここで雪乃を傷つけることになれば、結局自分の行動は無意味だったことになってしまう。
こうして八幡は身動きが取れなくなってしまう。たとえ「うわべ」だとしても日常を失うのはつらいし、もし「うわべ」を脱却しようとすれば彼女たちを傷つけてしまうかもしれない。このジレンマが八幡をがんじがらめにする。
では八幡はこのうわべをめぐるジレンマをどのように解消したのだろうか?
Ⅳ. 「本物がほしい」(9巻中間部まとめ)
ⅰ. 平塚先生の助言
結論から言えば、八幡は平塚先生から「誰かを大切に思うと言うことは、その人を傷つける覚悟をすることだよ」*8という助言をもらうことでジレンマを解消する。
つまり今まで八幡は「大切に思っているからこそ傷ついてほしくない」という心理で行動してきたわけだが、平塚先生に従えば「大切に思うことは傷つける覚悟をすること」なので、誰かを大切に思った結果その人を傷つけてしまうことはありうるのだ。
これによりジレンマは解消する。すなわち今まで八幡は「大切→傷つけられない」と思っていたから行動できなかったわけだが、「大切→傷つけることもある」と考えを改めたので行動できるようになったのだ。
ⅱ. 「欲しいものがあったから」
ただ平塚先生の助言はあくまで八幡に行動できる論理を与えたにすぎない。肝心なのは、このヒントをもとにして八幡が自分で「欲しいものがあった」という精神的な動機を意識するということだ。
平塚先生にアドバイスをもらった八幡は自問自答を始める。今までの自分は何のために行動してきたのか。それを突き詰めて、ついに八幡は大切なことに気づく。
欲しいものがあったから。
たぶん、昔からそれだけが欲しくてそれ以外はいあらなくて、それ以外のものを憎んですらいた。だけど一向に手に入らないから、そんなものは存在しないとそう思っていた。
なのに、見えた気がしてしまったから。触れた気がしてしまったから。
だから、俺はまちがえた。
問いはできた。なら、考えよう。俺の答えを。*9
そこで八幡は、現状を打破すべく行動を起こす。
ⅲ. なぜ「本物がほしい」が関係を改善したのか?
結局、奉仕部の関係性は八幡が「本物がほしい」と言ったことで改善する。しかしなぜ「本物がほしい」と言うことで関係性が改善したのだろうか?
それは八幡が「本物がほしい」と言うことで、奉仕部の現状を打破するために雪乃や由比ヶ浜が言葉を尽くせるようになったからである。要するに八幡はきっかけをつくったのだ。
とくにここでは由比ヶ浜の言動が大きく作用している。「本物がほしい」という言葉に由比ヶ浜が同調し、「今のままじゃやだよ……」と素直な気持ちを伝えたからこそ、雪乃は曖昧ながらも前に進むことができたのだろう。
こうして、奉仕部は仮初の日常を脱する。
(※この場面はこの記事だけでは解説しきれない。とくに彼らの「言葉」についての議論は『俺ガイル』を通して非常に大切なので、その点については「本物とは何か」という問題も含めて別の記事で考察したい。)
Ⅴ. 「本物」を求めて(9巻後半まとめ)
ⅰ. 由比ヶ浜結衣との関係
うわべの関係を脱した奉仕部の面々はさらに踏み込んだ関係へと歩み出す。9巻後半部では、彼ら彼女らが互いに歩み寄っていくさまが、ディスティニーランドでのふるまいを通して描かれている。
まず初めに八幡と由比ヶ浜との関係の進展は、小町へのお土産選びのシーンに描かれている。以下に引用する部分だ。
「でも、あたしは、また……来たいな」
途切れがちな声に顔を向けると、由比ヶ浜はでっかいぬいぐるみを撫でていた。
「いつでも来られるだろ、近いんだし」
「そういうことじゃ、ないんだけど……」
言いながら、由比ヶ浜は俺を探るようにちらっと視線を送ってくる。それがちくりと胸に刺さって、文化祭の時にした無責任な約束を思い出した。体育祭や修学旅行、生徒会選挙と慌ただしい日々が続いていて、ずっとそのまま留め置いたままだった。
一歩踏み込んだつもりでいた距離感はどれくらい変わってしまったのだろうか。*10
「文化祭の時にした無責任な約束」というのは、八幡が由比ヶ浜にもらったハニトーのお礼をするという約束のことだ。「だから、もう一歩くらいは、踏み込んでも、いいのだろうか」、八幡がそう考え交わされていた約束はこのときまで保留されていた。
その6巻のやり取りがここで繰り返されているということは、改めて一歩踏み込む八幡と由比ヶ浜の関係を表現していると受け取れる。
ⅱ. 雪ノ下雪乃との関係
①「いつか、私を助けてね」とは?
他方、八幡と雪乃との間では今後の大きな伏線とも言える会話が繰り広げられる。
まず「いつか、私を助けてね」という雪乃の言葉が重要だ。実際プロムの件(12巻~)ではこの言葉が大きな要因となって八幡は雪乃を助けることになるわけだが、重要なのはこの言葉が呪いとして作用しかねないという点だ。
なぜこの言葉が呪いかと言えば、捉えようによっては「いつか、私を助けてね」という言葉は「依存関係」への誘いだと受け取れるからだ。
②依存の証拠?
そもそもなぜ雪乃はこのタイミングでそんな言葉を言ったのだろうか?
単純に考えれば、「本物がほしい」と言って踏み込んできた八幡に対し、雪乃も八幡と一歩踏み込んだ関係になろうとして言ったというのが無難な解釈だろうか。
しかし、もしそうだとしたら雪乃にとって踏み込んだ関係とは「共依存」の関係性に近いということになるのではないだろうか?
③「助けて」という言葉は呪い?
なぜなら「助けて」という言葉は、相手に寄り掛かって自分を支えてもらおうとする言葉だと言えるからだ。
まずもって、「助けて」と言うことは「自立」とは言えない。むしろ「自立」とは反対に位置する言葉である。もし雪乃が「自立」していたら「助けて」と言う必要はなく、自分で何とかすると言うだろうからだ。
加えて、「助けて」と呼び掛けるということは、自分が相手に寄り掛かるだけでなく、相手も自分に寄り添うように呼びかけるということだとも言える。
そのように考えれば、この「助けて」という言葉は八幡を依存させる言葉、あるいは雪乃が八幡に依存し始めていることの証左となるような言葉と言えるのではないだろうか?
④「自立」を求める雪乃
しかし矛盾するようだが、この後の会話からは雪乃が「自立したい」と考えていたことが読み取れる。
雪乃は、陽乃や八幡たちが「私にないものを持っている」ことを感じながら、「なんで私はそれを持っていないんだろうって、持っていない自分に失望する」のだと言う。
そして「別のものがほしかった」と言う雪乃。それはなぜかと言えば、「それがあれば、私は救えると思ったから」のだと言う。
では雪乃は何を「救えると思った」のだろうか?
⑤雪乃は何を「救えると思った」のか?
結論から言えば、雪乃は自分自身を救えると思ったのだろう。
そもそも雪乃は陽乃が「私にないもの」を持っていることで「なんで私はそれを持っていないんだろうって、持っていない自分に失望」していた。
「私にはないもの」というのは、簡単に言えばアイデンティティのことだろう。幼いころから何でもそつなくこなしてきた雪乃だが、それは陽乃のいわば焼き直しにすぎない。
陽乃は家からも仕事を任され、それを完璧にこなしている。雪乃はその姉の後姿を完璧にトレースして追いかけただけで、そこに雪乃だけの独自のアイデンティティは形成されようがない。
だから雪乃は、自分独自のアイデンティティを持っていない自分=「持っていない自分」に失望する。
だからこそ、雪乃が欲するのは「あなた(八幡)も姉さんも持っていないもの」=「別のもの」になる。八幡や陽乃がもっているものを得てもそれは雪乃独自のアイデンティティにはならないからだ。雪乃だけの、彼女自身のアイデンティティを雪乃は欲しているのだ。
以上のことから、その雪乃独自のアイデンティティがあれば救えるものというのは、つまるところ雪乃自身ということになる。彼女だけのアイデンティティがあれば、、姉の分身でしかない、「雪ノ下雪乃」というアイデンティティを確立できるのだ。
⑥アイデンティティを求めながら「助けて」と言ってしまう矛盾
以上で見てきたことは一見すると矛盾する。「助けて」と言うことは依存に近いが、「別のもの」がほしいと言うことは自立したいと言うことにほかならないからだ。
この逆説的なふるまいが10巻以降で、とくに12巻以降で支障をきたしてくることになる。具体的に言えば、「共依存」うんぬんの話につながってくる。
これについては12巻以降で詳しく考察したいと思うが、差し当たって言っておきたいのは以上のことは一見すると矛盾しているが矛盾していない、まさに「逆説的」な振舞いだということである。
とにかく、詳しくは別の記事で考察したい。
Ⅵ. 物語の結末は……
以上が9巻の大まかな内容の考察・解説となる。ただ二点ほど大筋に入りきらなかった内容があるので、最後にそれらに軽くふれて論を閉じたい。
ⅰ. 『賢者の贈り物』が取り扱われた理由
まず一点目は『賢者の贈り物』が取り扱われた理由だ。
『賢者の贈り物』のあらすじを簡単に書くと以下のようになる。
- 貧しい夫婦がお互いにクリスマスプレゼントを贈り合おうとする
- 夫は妻の綺麗な髪のために櫛を買おうとして、懐中時計を質に入れて櫛を買う
- 妻は夫の懐中時計をつるす鎖を買うために自慢の髪を切って売る
- 互いのプレゼントの対象はなくなってしまうが、これは最も懸命な行為だと結ばれる
この『賢者の贈り物』の内容は、9巻の最後の地の文に連動している。
もしも、願うものが与えられるのなら、欲しいものが貰えるのなら。
やはり俺は何も願わないし、欲しない。
与えられるものも、貰えるものも、それはきっと偽物でいつか失ってしまうから。
願うものには形がない、欲しいものには触れられない。あるいは、手にしたら最も素晴らしい宝物を台無しにしてしまうのかもしれない。
輝く舞台で目にしたあの『物語』の結末。
その先を俺はまだ知らずにいる。
だから、きっと求め続ける。*11
『賢者の贈り物』は主に、プレゼントの物理的な意味がなくなっても、精神的には気持ちが伝わったからハッピーだよね、と解釈される。たしかに『賢者の贈り物』の夫婦はそうかもしれないが、本当のところどうなのだろうか?
奉仕部は今『賢者の贈り物』の途中の状態にある。お互いのことを思った結果、お互いが何かを失ってきた。そして結局、八幡は「本物」という「形がない」もの、「触れられない」ものを願ったわけだが、その結末はまだ誰も知る由がない。
この奉仕部の現状に見合った物語が『賢者の贈り物』だった。だから『賢者の贈り物』を引用したのだろう。
ⅱ. 鶴見留美が登場した理由
①『賢者の贈り物』と「昔のやり方」
あるいはもう少しひねくれた解釈をすれば、『賢者の贈り物』の夫婦のやり方というのは八幡「昔のやり方」にも似ている。
髪を売って鎖を得た妻のように、懐中時計を質に入れて櫛を得た夫のように、八幡は(傍から見れば)自分を犠牲にするようにして何かを得てきた(純粋な自己犠牲ではないが)。
②鶴見留美が教えてくれたこと
例えばその結果として、八幡はひねくれた形で鶴見留美を救ったわけだが、結局彼女は「一人」のままだった。
しかしそれは裏を返せば、鶴見留美は「一人」で生きられるようになったということでもある。その意味では、八幡は一つの結末は見たということにはなる。
このことは9巻で対比的に描かれている。すなわち9巻前半では、「昔のやり方でも、救えたものは確かにある」ものの、「俺の責任。その答えを俺はまだ知らずにいる」と言っているのに対し、9巻後半では「一人で生きられるから、一人でできるから、きっと誰かと生きていける」と答えを得ている。
③八幡のこれまでの振舞いの清算としての鶴見留美
八幡が「昔のやり方」でやっていたことは「一人で生きる」ということの徹底だ。しかしそれは「人の気持ち」をないがしろにしてしまうことにつながる。
八幡がこれからやっていくことはまさに「人の気持ち」を考えて「誰かと生きる」ということであって、鶴見留美の生き様は9巻までの八幡の態度とこれからの展望にちょうど重なる。
この八幡のこれまでの振舞いの清算を描くために鶴見留美は登場したと考えられるだろう。
ⅲ. だから「本物」を求め続ける
『賢者の贈り物』のような振舞いを経て、鶴見留美のように生きて、八幡はどこへと向かうのだろうか。
輝く舞台で目にした物語の結末、それを追い求めて八幡は「本物」を求め続ける。
「本物」とは何なのか。どうすれば「本物」に近づけるのか。「本物」を求め続けた先で彼らは「本物」に苦悩する。
「本物」なんてあるのだろうか――いずれ彼ら彼女らはそう問わざるを得なくなるだろう。
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