野の百合、空の鳥

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2025ベストマンガ

はじめに

2025ベストマンガを発表したい。

今年も相変わらず、あまりマンガが読めなかった。それでも、自分がベストだと思ったマンガを薦めたい気持ちがある。世にマンガ賞は数あるけれど、そのなかのひとつの指標になると嬉しい。

ベストマンガは、2025年に1巻が発売したマンガから選び、昨年同様、「このマンガがすごい!」や「このマンガを読め!」といった著名な賞の上位にランクインした作品を入れることは控えた(ただ基本的にはほとんど意識する必要もなく、個人的な趣向とは異なっていた)。

いずれにせよ、今年もこれが私のベストマンガだ。

(一応ランキング形式にしてみたものの、あくまで星の数あるマンガのうちの私の好みにすぎない。)

 

10. 井波エン『ぼくのブルーキャット』

ぼくのブルーキャット【特典付】 (onBLUE comics)

ピアニストと調律師のBL。

BLマンガとして加味すべき要素がこれでもかと味わえ、好感をもった。

途中、「未成年への性的な加害を示唆する表現があります。読み進める際は、ご自身の心身状態とご相談のうえ、ご判断いただくようお願いします」と断りがあり、この断りのまえに「あとがき」があったことも印象的だった。

現在では珍しくないことだし、実際的なこととしてよく理解できる。一定以上の人に必要だと思う。ただ、本心では、やはり顛倒しているとも思う。但し書きが必要だとすればそれは現実のほうだからだ(但し書きを用意されるべき人は、現実のほうに助けが必要なはずだ)(もちろんそれ以外にも、それが編集者が責任を免れるための免罪符にすぎないのか、本当に当事者のためを想っているのかなども考慮に値する)。しかしこの線引きが、2025年のメルクマールなのだと感じ、その記録のためにもベストに選出した。

 

09. 朝霧あさき(原作)・セレン(原作・漫画)『ベル・プペーのスパダリ婚約〜「好みじゃない」と言われた人形姫、我慢をやめたら皇子がデレデレになった。実に愛い!〜』

ベル・プペーのスパダリ婚約~「好みじゃない」と言われた人形姫、我慢をやめたら皇子がデレデレになった。実に愛い!~(コミック) 1巻 (デジタル版ガンガンコミックスUP!)

最高にかわいいマンガ。

いったい誰が「スパダリ」なのか、ぜひ読んでたしかめてほしい。

(特定のジャンルのマンガの全体像の把握はすべて難しいのだが)文章タイトル系の作品はとくにアンテナを張ることが(個人的に)難しい。

こうした傾向の作品は、基本的には、タイトルがすべてのオチにならなければ長続きすると考えているが、どうだろうか。

 

08. みきもと凜『宝石箱に愛をつめよう』

宝石箱に愛をつめよう(1) (別冊フレンドコミックス)

絵に惹かれて興味をもった作品。

実際、マンガもとても魅力的で、表紙からも分かるように、主人公の表情が良い。わけても唇に表情があふれていて面白い。

話も、かなり等身大な詩性に好感がもてるし、展開も飽きさせない。良い少女マンガ。

 

07. 温泉中也『現象X 超常現象捜査録』

現象X 超常現象捜査録 1 (HARTA COMIX)

アニメーター・イラストレーターとして著名な温泉中也のマンガ作品。

「亜人」という要素もある洋ドラ風のクライムサスペンス。もちろん、画の良さが光る部分も多いが、マンガとしての挑戦も愉しい。

1話ごとに完結する洋ドラスタイルが温泉に与えたのは寓話、あるいは説話の創り方ということだった気もする。あるいはむしろ、寓話ないし説話の要素が洋ドラっぽいということなのか。

 

06. 八ツ波樹(原作)・雪平薫(作画)『星霜の心理士』

星霜の心理士(1) (マンガワンコミックス)

勇者一行のカウンセリングを行う臨床心理士の物語。

魔王討伐と勇者一行という『フリーレン』以降より著名になったテンプレートにおいて、持ち込まれるのはもはやファンタジーではなく現実だということは、一周回って、豊かな想像力を試されている。本作はその点、完璧な掴みだと思う。

もちろんリスクが伴う。心理士は旅をしない。動かないのはマンガとして致命的なはず。それを本作は、臨床という設定に解決させる。臨床の場では、クライエントはけっして治癒対象としての「患者」ではなく、「語りの主体」とみなされる。この「語りの主体」という構造こそが、マンガを駆動する。はたしてどこまで「動く」ことができるのか、この先も楽しみにしている。

なお、匿名のようだが、監修として臨床心理士/公認心理士が入っている。門外漢の私にはそれ以上言うべくもない。

ファンタジーをも現実が食い殺す現代のマンガとして、たいへん象徴的だと感じた。

 

05. 龍村景一『ツッパリ探偵怪人メルヘン心中』

ツッパリ探偵怪人メルヘン心中 (トーチコミックス)

トーチwebに掲載されていた筆者の短編集。

たとえば明らかに「キャラデザ」ないし次元の異なるキャラクターを同一表面上で描くなど、マンガの力能を試すかのような、実験的な試みが印象的。表紙もすでにしてその試みを物語っている。

筆者ならではのおもしろいリズムやおかしみもあり、たいへん愉しい作品集となっている。

 

04. 千葉ミドリ『緑の予感たち』

緑の予感たち (1) (トーチコミックス)

こちらもトーチwebに掲載されていた作品集。

おととしの記事でも紹介したが、マンガとしてもたいへん痛快な表現があり、かつ、摩訶不思議な噺(はなし)たちも、それぞれがそれぞれの世界に読者をきちんといざなってくれる。

昔話をきちんと「怖い」と思えていた子どもの頃のことをよくよく思い出す。

たいへんお気に入りの作品。

 

03. 伊藤九『ランチユーインザスカイ』

ランチユーインザスカイ (モーニング・ツーWeb)

高校生の南くんと喜多くん、ひと夏を超えた、花火づくり。

余命いくばくかという喜多くんは、自分の遺骨を花火に混ぜて打ち上げてほしいと言う。

絵の魅力がとてつもなくある。ともすれば消え入れそうなたよりない稜線で描かれた身体には、しかしたしかに生きた証が刻まれている。

このマンガ自体、そういう魂で描かれている。

まばゆいくらい、刹那のきらめき。

 

02. ほそやゆきの『シルク・フロス・ボート』

シルク・フロス・ボート(1) (&Sofaコミックス)

『夏・ユートピアノ』を描いたほそやゆきのの最新作。

蚕がモチーフになっており、中盤の「きみょうちょうらい こかげさん」といった一節から、養蚕起源譚をモチーフにしていることが分かる。簡単に言えば、一人の姫が、うらみやねたみで不幸の身となり、船で流され、新しい存在、蚕の神として生まれ変わるのである。「シルク・フロス・ボード(絹の綿の小舟)」というタイトルとも呼応する。

実際、本編では、いじめが原因で亡くなったらしい——「いじめ」とは明確には言われておらず、そのあたりも繊細にコントロールされている——女の子が、蚕と人間のミックスのような姿で生まれ変わる。加害者(?)の女の子は生き物のほうの蚕を飼うことになり、やがて二人は邂逅する。

蚕というモチーフが抜群に効いている。マンガも相変わらず、糸をほどくように進行する。時折、1ページ中で唐突に4コマのように縦に読ませるコマがあり、興味深かった。

これからも追い続けたい描き手。

 

01. 田川とまた『CHANGE THE WORLD』

CHANGE THE WORLD(1) (マンガワンコミックス)

アツい。ものすごくアツいマンガ。本当に、世界を変えるという気概で芝居をやるということ、そしてそれを描くということが、ありありと伝わってくる。

演劇を題材とするマンガは数多くあるし、高校演劇を題材としたマンガだって少なくないとは思うが、筆者が高校、大学と実際に演劇部だったこともあり*1、ホールの臨場感などは、かなり本物に近い感覚を得た。

とりわけ、各芝居のタイトルバックがたまらなく格好いい。すべてに気概が感じられる。馬鹿真面目で不器用な主人公も大好きだ。

フィクションが殺すということを、それでもなお、信じている自分にとって、非常に勇気づけられる作品だった*2

 

おわりに

イメージが、せいぜい殺人ほう助罪にしか問えないとすれば、それはイメージを過小評価しすぎだと思う。

イメージは殺す。リテラルに。このことを思えば、たしかに但し書きは、すべてのフィクションにこそ必要であるということにもなろう。

もちろん実際には、そんな御託は通用しない。ただそれでも、あらゆる社会的留保を措いて、もっとイメージを信じてみてもいいのではないか。

ここにある作品たちに、改めてそう思い知らされた一年だった。

 

【関連記事】

 

 

*1:以下を参照。「北見在住漫画家・田川とまたさんの新作「チェンジ・ザ・ワールド」1巻発売」『北見経済新聞』2025年3月12日(https://kitami.keizai.biz/headline/400/)。

*2:Cf. Marie-José Mondzain, L'image peut-elle tuer ?, Malakoff, Bayard, 2002 ;  Georges Didi-Huberman, Images malgré tout, Paris, Minuit, 2003.