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さらざんまい考察③「吾妻橋」から読み解く『さらざんまい』――吾妻橋と吾妻サラ――

<前回>

この記事は続きですが、③でも②の内容を簡単にまとめながら考察を進めています。

 

本記事では吾妻サラについての情報を整理した上で、前回まとめた吾妻橋に関する情報を利用して、『さらざんまい』における「吾妻橋」と「吾妻サラ」について考えていきます。

 

 

Ⅲ. 吾妻サラについて

第四皿が終わった現時点 (2019/5/5) では、吾妻サラに関する情報は多くはありません。

 

名前やキャラデザ、「放課後カッパー」など、得られる情報は限られているのですが、吾妻サラに関してヒントとなるような情報が「アサクササラテレビ」のテロップに流れています。

 

ここでは主にそのテロップを整理してまとめ、それについて若干の考察を加えておきたいと思います。

 

ⅰ. 「アサクササラテレビ」のテロップまとめ

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「アサクササラテレビ」のテロップ(『さらざんまい』第一皿より ©イクニラッパー/シリコマンダーズ)

「アサクササラテレビ」のテロップとは、上画像の画面下部の小さいローマ字の羅列の事を指します。

 

見ての通り表記がローマ字で読みにくいので、ここでは簡潔に、それを日本語に直した情報をまとめていきたいと思います

 

テロップの中には途切れているものもあるのですが、その場合は、読み取れる限りの文字を記しました。

 

それから、細かいことですが、「サラッとレポート」の後の星のマークのようなものは半角のプラス(+)で表記し、テロップでは大文字のローマ字で表記されていた "HAKO" , "NEKO" , "KISS" , "SOBA" は全て欲望の対象であったことを考慮し、「ハコ」、「ネコ」、「キス」、「ソバ」と鍵括弧付きのカタカナで表記しました。

 

a. 第一皿
  1. サラッとレポート+ プリンスを探しています。特徴はイケボでいい匂いでもち肌で蛙じゃないでぃっしゅ。好きな食べ物はきゅうりでぃっしゅ。普通の人間には見えません。
  2. サラッとレポート+ プリンスはコールドスリープでどこかに眠っているはずでぃっしゅ。もしそれを破壊したものは祟られますでぃっしゅ。具体t
  3. 大人買いには「ハコ」がひつようでぃしゅ。サラはチョコバーブラックサンダーを大人買いしてるでぃっしゅ。誰にも言えない秘密でぃっしゅ。夜逃げにも「ハコ」が必要でぃっしゅ。サラもむ

 

b. 第二皿
  1. プリンスが見つかりましたでぃっしゅ。感動の再会でぃっしゅ。プリンスは変わり果てたお姿に…。でもサラのラブはフォーエバーでぃっしゅ。彼の吐息はきゅうりの匂い。彼の瞳は魅惑のブラックホール。彼の声はセクシーボイス
  2. サラッとレポート+ サラは渓流釣りをします。ニジマス、ヤマメ、イワナ…どれを食べてもデリシャスでぃっしゅ。コツは魚
  3. サラッとレポート+ 独り暮らしには「ネコ」がとっても必要でぃっしゅ。一緒にご飯を食べたりキャットタワーで遊んだりお昼寝したり誰もいない壁を見つめt

 

c. 第三皿
  1. ささみ胡麻和えレシピでぃっしゅ。きゅうりを用意します。次にニワトリを絞めます。血抜きをします。羽をむしります。ちょっと休憩でぃっしゅ…
  2. サラの国では「キス」をする前にきゅうりで歯を磨きます。キュキュキュキュキュ~!仕上げにきゅうりのフレイバーウォーターを飲むでぃっしゅ。

 

d. 第四皿
  1. 作家というのは生と死のはざまにいるでぃっしゅ。サラは墨田区と台東区のはざまにいるでぃっしゅ。プリンスは愛と欲望のはざまにいるでぃっしゅ。
  2. サラッとレポート+ サラは実はうどん派でぃっしゅ。なぜなら皿うどんはあるけど皿「ソバ」はないからでぃっしゅ。皿とざるは別でぃっしゅ。誰にも言えない秘密でぃっしゅ。

 

ⅱ. 「アサクササラテレビ」のテロップから考えられること

a. 第一皿

第一皿を単純に解釈すれば、吾妻サラがケッピ(プリンス、イケボ、いい匂い、蛙じゃない、好きな食べ物きゅうり)を探していると解釈できます。

 

気になるのは「コールドスリープでどこかに眠っている」という言葉で、これを素直に受け取れば、第一皿で一稀と悠がカッパ像を破壊したあのとき、コールドスリープがとけたのではないかと考えられます。

 

b. 第二皿

第二皿のテロップは、サラがケッピを見つけたと受け取ることができます。

 

気になるのは、「プリンスは変わり果てたお姿に」という文言で、そこからケッピのあの姿は元の姿のではないのではないかと考えられます。

 

また、「サラのラブはフォーエバー」からはサラがケッピに愛情を抱いていると考えられます。

 

c. 第三皿

第三皿で気になるのは「サラの国」という言葉です。

 

「きゅうりで歯を磨く」という習慣を単純に解釈すればサラは「カッパ王国」の住人なのではないかと解釈できます。

 

d. 第四皿

第四皿のテロップ「サラは墨田区と台東区のはざまにいるでぃっしゅ」からは、吾妻橋が墨田区と台東区を橋渡ししていることから、吾妻サラが吾妻橋を象徴しているのではないかと考えることができます。

 

「作家というのは生と死のはざまにいるでぃっしゅ」は、そこに深い意味を読み取ってもよいのですが、ひとまず一般論として捉えることはできます。

 

「プリンスは愛と欲望のはざまにいる」は、はっきり言ってよくわからないのですが、「欲望か、愛か」という玲央と真武のセリフと関連するのではないかと言うことはできます。

 

 

以上、主に吾妻サラと「アサクササラテレビ」のテロップについて見てきました。

 

これに加えて、「吾妻サラの来ている服」や「瞳の中に描かれた虹」を手掛かりにして、以下ではさらに吾妻サラと吾妻橋との関連について考えていきます。

 

 

Ⅳ. 『さらざんまい』における吾妻橋と吾妻サラ

ⅰ. 『さらざんまい』における吾妻橋

a. 「吾妻橋@欲望フィールド」=生と死のはざま
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吾妻橋@欲望フィールドと消えかかるそれ(『さらざんまい』第二皿、第四皿より©イクニラッパー/シリコマンダーズ )

『さらざんまい』における吾妻橋は、まず生と死のはざま、境界線だと言うことができるでしょう。

 

なぜなら、「生きていて死んでいる」欲望フィールドにおいて、カパゾンビという人間としては死にながらも生前の欲望をかき集めるゾンビが、「さらざんまい」によって「解脱」していく場所*1「吾妻橋(@欲望フィールド)」だからです。

 

前回見てきたような、現実における吾妻橋が「死」と深く結びつき、多くの人々がその近くで生から死へと向かっていったことに鑑みても、そのような生と死とのはざまという設定は「吾妻橋」にふさわしいように思えます。

 

ではそのような「吾妻橋」とその名が似通っている「吾妻サラ」とはどのような人物なのでしょう?

 

ⅱ. 『さらざんまい』における「吾妻サラ」

a. 吾妻サラ=「吾妻橋」の権化のような存在

まず、『さらざんまい』における「吾妻サラ」は、吾妻橋の権化のような存在であると考えられます。

 

理由としては主に以下の2つが挙げられます。

  1. 名字の「吾妻」
  2. 第四皿のテロップ「サラは墨田区と台東区のはざまにいるでぃっしゅ」
  3. 吾妻橋の名の由来である吾嬬神社にゆかりのある弟橘媛の姿と吾妻サラのキャラデザに関連を見出すことができるから

あまり説明はいりませんが、まず、「吾妻サラ」の名字の「吾妻」は吾妻橋からとったのではないかと考えられます。

 

また、「サラは墨田区と台東区のはざまにいるでぃっしゅ」は前述した通り、墨田区と台東区を橋渡しする橋こそが吾妻橋であるので、サラがそこにいるというのはつまり、吾妻サラ自身が吾妻橋の権化のような存在だと考えられます。

 

「3」については後述したいと思います。

 

ともかく、以上のような理由から、吾妻サラは吾妻橋の権化のような存在だと考えられます。

 

そして、もしそうならば、次のようなことも考えられます。

 

b. 吾妻サラ=橋渡しをする存在

もし吾妻サラが吾妻橋をもとにしており、その権化のような存在だとするならば、吾妻サラは吾妻橋のような役割、橋渡しをする役割を果たすということが考えられます。

 

吾妻橋のような役割とは、例えば、前述したような「生と死のはざま」としての役割、生と死を橋渡しする役割です。

 

吾妻サラが考える理由としては、前述したような「吾妻橋」の役割に加えて、「サラ」という名前も挙げられます。

 

「サラ」というのはいろいろな意味がかかっていると考えられますが、その一つには、考察①で見たような「沙羅」=涅槃の象徴という意味合いが込められていると考えられます。

 

涅槃とは、生死を超えた悟りの世界であり、厳密には生と死との橋渡しというよりは、生死の世界とそれを超越した世界との橋渡しと言うべきですが、いずれにせよ、そこでは何か橋渡し的な役割を果たすことになります。

 

また、以上のことに関して、吾妻サラの容姿にも少し気になるところがあります。

 

c. 吾妻サラの瞳に描かれた「星」と「宇宙」

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吾妻サラの瞳に描かれた虹(『さらざんまい』第一皿より ©イクニラッパー/シリコマンダーズ)

 それは吾妻サラの瞳に描かれた「星」と「宇宙」です。

 

「星」は、「お星さまになる」と言うように、死の暗喩として用いられ、これも死のイメージと結びつきます。

 

また、サラの瞳の大部分を占める紫っぽい部分は「宇宙」に見え、他の世界との「つながり」を感じさせます。

 

ちなみに、瞳に描かれた赤・青・黄の三色はそれぞれお一稀・悠・燕太の三人のイメージカラーですが、今のところサラと何の関係があるかはわかりません。

 

ともかく、以上のことから、吾妻サラは何かと何かを橋渡しする存在、例えば生と死を橋渡しする存在、あるいはより広く、世界と世界を橋渡しする存在だと考えられます。

 

アニメでは今のところそのような機能は果たしていませんが、もしも吾妻サラが橋渡しをする存在なら、今後アニメで何かと何かを橋渡しする可能性はあるかもしれません。

 

しかしながら、今のところは推測の域を出ません。

 

d. 吾妻サラ=カッパ王国側の存在?(ケッピの妃?)

また、吾妻サラはカッパ王国側の存在、もっと言うとケッピの妃*2だと考えられます。

 

そう考える理由は以下の三つです。

  1. 「プリンスを探しています」「サラの国では『キス』をする前にきゅうりで歯を磨きます」「サラのラブはフォーエバー」などの「アサクササラテレビ」のテロップの情報
  2. 甲羅があるキャラクターデザインと、「アサクササラテレビ」に登場する謎のカッパのようなマスコット
  3. 着物に描かれた㋐

まず、「アサクササラテレビ」のテロップの情報を素直に解釈すれば、吾妻サラは愛するプリンスを探してカッパ王国から来たと解釈できます。

 

また、皿や甲羅といったキャラクターデザインもカッパを思わせるもので、謎のカッパ型マスコットはケッピにそっくりです。

 

3に関しては少し説明が必要なので以下で説明します。

 

e. ㋐=カッパ王国側の印?

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ケッピ登場シーンと㋐(『さらざんまい』第一皿より ©イクニラッパー/シリコマンダーズ)

㋐の印はカッパ王国側の印なのではないかと考えられます。

 

なぜなら、ケッピの初登場シーン仲見世通りを通って吾妻橋@欲望フィールドへ行くとき尻子玉送信時のWifiのアなど、カッパ王国サイドの演出に関して㋐が使われているからです。

 

それとは対照的に、カワウソ王国側の演出では、カワウソマークが用いられています。

 

したがって、着物に㋐のマークがついている吾妻サラはカッパ王国側の存在なのではないかと考えられるわけです。

 

しかしながら、㋐のマークは作中では浅草の街中にあるわけで、㋐がカッパ王国のマークとは限らないのではないか? とも思われます。

 

しかし、これに関してはある仮説があるので、それを後述したいと思います。

 

ともかく、以上で見てきたことをまとめると以下のようになります。

  • 吾妻サラ=吾妻橋の権化のような存在
  • 吾妻サラ=橋渡しをする存在
  • 吾妻サラ=カッパ王国側の存在(ケッピの妃)

吾妻サラの登場が少ない現段階では以上のような推測しかできませんが、吾妻サラが物語の鍵を握る人物であることは確かでしょう。

 

はたして吾妻サラはどのような活躍を見せることになるのか、今後の展開に注目です。

 

Ⅴ. 吾妻橋と吾妻サラから見えてくる『さらざんまい』の世界観

吾妻橋と吾妻サラについて考えてゆく過程で、なんとなく『さらざんまい』の世界観についても考えたので、それに関して今の自分の考えをまとめておきたいと思います。

 

一応自分なりに理由付けなどはきちんとしようとしてはいるのですが、一個人の妄想だと思って読んでいただけると幸いです。

 

 

※なお、原作小説『さらざんまい上』のネタバレに触れているので、苦手な方はブラウザバックをおすすめします。

 

 

ⅰ. ケッピの目的は何か?

ケッピの目的って何なのでしょう?

 

ケッピ曰く、「これからもカッパになって、カパゾンビの尻子玉を抜いてもらいたいのですケロ」*3というわけなのですが、カパゾンビの尻子玉を抜いて、ケッピに何の得があるのでしょう?

 

カパゾンビの尻子玉を抜いて、「さらざんまい」をして、欲望を消化して、希望の皿を吐き出す、この一連の行為に何の意味があるというのでしょう?

 

ⅱ. カッパやカワウソには尻子玉の欲望エネルギーが必要?

少なくとも言えるのは、カッパには尻子玉の欲望エネルギーが必要なのではないかということです。

 

なぜなら、カッパ王国とカワウソ帝国は、尻子玉の欲望エネルギーを奪い合って戦争をしていたからです。*4

 

なぜそれを奪い合う必要があるのかと言えば、カッパにとっても、カワウソにとっても欲望エネルギーが欲しいから、あるいは必要だからでしょう。

 

ではなぜカッパやカワウソにとって欲望エネルギーが必要なのでしょうか?

 

ⅲ. 欲望エネルギーが必要な理由

a. 生きるのに必要

単純明快ですが、これが一番納得できる気はします。

 

生きるのに必要なら戦争もするだろうし、カワウソも人間界にまでとりにくるわけです。

 

b. 電気のように、他の物を動かすエネルギーとして必要

これは「カッパ王国は、その全機能を停止した」*5という小説の文言に発想の元があります。

 

「カッパ王国は、その全機能を停止した」という言い回しは、まるでカッパ王国が機械か何かのような言い回しです。

 

人間の文明のように、カッパ王国でも何かエネルギーを必要としているという設定はなくはないとは思いますし、エネルギーの奪い合いは現実世界でもありえることです。

 

ただ、そういう設定にしても、作品全体のテーマに関してあまりよいことはない気がするので、これはあんまりないような気がします。

 

c. 欲望エネルギーを得ることで欲望を満たしているため

この発想は、欲望消化した後のケッピが、ご飯を食べた後の人間のように、満足して眠くなっている様子から来ています。

 

これは「a.生きるのに必要」と合体させることができます。

 

つまり、欲望エネルギーの消化=人間の消化のようなもの、と考えられるわけです。

 

すなわち、人間にとって食べ物というものが食欲を満たすためかつ生きるのに必要であるように、カッパにとっては欲望エネルギー欲望を満たすためかつ生きるのに必要であると考えられるのです。

 

今のところ、それが一番納得している理由なのですが、もしそうだとするならば、ケッピは人間の敵になり得ることになります

 

ⅳ. ケッピはそもそも人間の味方とは言ってない

当たり前ですが、ケッピはそもそも人間の味方とは限りません。

 

カパゾンビを倒させることで、人間からハコ、ネコ、キス、ソバといった欲望の対象を取り上げることを阻止していて、表面上は人間によって善いことをしているように思えるのですが、ケッピの目的はそこにはないように思えます。

 

むしろ、ケッピが尻子玉の欲望エネルギーを必要とするならば、尻子玉の欲望エネルギーがとれる人間は、ケッピにとって格好のエサとなるはずです。

 

しかしケッピはむやみやたらに人間の尻子玉を抜いて欲望消化したりはしないわけです。

 

それはなぜなのでしょうか?

 

ⅴ. カワウソ帝国が邪魔?

ケッピ、ひいてはカッパ側にとって最悪のシナリオは何でしょうか?

 

それは思うに、カワウソ帝国が人間から欲望エネルギーを吸い尽くして、ケッピも殺して、完全にカッパ王国を滅亡させるというシナリオだと考えられます。

 

だからケッピはひとまずカワウソ帝国が人間の欲望エネルギーを吸い尽くすことを阻止するように、カパゾンビから欲望をカッパらって、それを消化しているのではないでしょうか。

 

ただ、カッパ側がとった策はほかにもあるように思います。

 

ⅵ. ㋐の雨=カワウソ帝国侵略阻止のための抑止策?

前述したように、㋐はカッパ側のマークだと考えられるのですが、なぜそれが浅草の街中に標識などとして広がっているのでしょうか?

 

その答えのヒントとなるのが、第一皿のアバンの㋐が大量に降ってくる描写にあると思われます。

 

結論から言うと、あの㋐の雨を降らすことで、カッパ側は人間の欲望の対象をわかりづらくして、カワウソ帝国が自由に欲望エネルギーを搾取するのを阻止したと考えられます。

 

㋐というのは、ラカンの対象a(=欲望の原因)を表していると考えられるのですが、ラカンは対象a(=欲望の原因)を捉えがたいものとして語っていました

 

つまり㋐は、人間一人一人あるはずの具体的な欲望の対象を隠ぺいする記号のような役割を果たしているのだと思います。

 

ⅶ. コールドスリープという王国復活策

「アサクササラテレビ」のテロップを解釈すると、ケッピがコールドスリープされていたのではないかと思われるのですが、なぜケッピはコールドスリープされていたのでしょう?

 

思うにこれも、カッパ王国が施した策なのではないでしょうか。

 

つまり、カワウソ帝国との戦争でほぼ全滅したカッパ王国側は、ケッピという「カッパ王国第一王位継承者」を人間界にコールドスリープしておくことで、最後の希望としたのではないでしょうか?

 

つまり、何らかの理由で別々になっていた「吾妻サラ」というカッパ王国の生き残りと協力して王国を再生できるようになるまで、ケッピはコールドスリープされていたのではないでしょうか。

 

そして時がきたからこそ、「吾妻サラ」はアイドルとしてテレビに出て、さりげなくメッセージを残し、その日カワウソ帝国の標的となった欲望の対象を「ラッキー自撮り占い」として伝え、欲望消化を促しているのではないでしょうか。

 

つまり、ケッピやカッパ王国側の最終目標は、カッパ王国の再興にあると考えられます。

 

しかしその目標をかなえるに当たっては問題が発生します。

 

ⅷ. 三つ巴の図式と「命の分岐のライン」

カワウソ帝国に人間の欲望を絞り尽くされても、人間側からしたら困ってしまうのですが、かといってカッパたちが繁栄しすぎて今度は河童たちが人間の欲望エネルギーを奪おうとしても、人間は困ってしまうわけです。

 

このあたりが、幾原監督の言う「存在できる命と存在できない命の分岐のライン」の形式的な表現につながってくるのではないでしょうか。

 

つまり、今、人間とカッパとカワウソとは「つながってしまった」、それぞれにとっては「欲望」というものが必要で、「欲望」を奪われてしまっては困る、したがってそこでは誰かが誰かの「欲望」を諦める必要が出てくるわけです。

 

そしてもし、人間とカッパとカワウソが上手く共存できないなら、そこでは「存在できる命と存在できない命」が分けられる必要が出てくる

 

つまり表面的な展開を言えば、今はカッパ勢力がほぼ全滅しているけれど、人間の欲望が根絶したり、カワウソが絶滅したりする展開もありえるということです。

 

目指すテーマによっては、終着点はどうにでもなるのですが、幾原監督の「存在できる命と存在できない命の分岐のラインが大事になる」という言葉からは、かなり厳しい線引きが行われないでもないような気がします。

 

もちろん「命」は物理的な生命だけにとらわれなくてもよくて、「生きていること」=「欲望をもっていてそれが満たされていないこと」だとするならば、一稀・悠・燕太たちが自分自身の満たされない欲望を肯定していくという展開はありな気がします。

 

ただそうは言っても、結局どうなるかは最後まで見てみないとわかりません。

 

『さらざんまい』がどういうことを伝えようとしているのか、それを考えるにはもっと作品をじっくり見ていく必要があります。

 

今は途中経過ですが、なんとなくそのことも考えつつ、考察していきたいと思います。

 

 

Ⅵ. おわりに

今回は「吾妻橋」から『さらざんまい』について、特に『さらざんまい』における「吾妻橋」と「吾妻サラ」について考察しました。

 

やっぱり「吾妻サラ」については、今後の展開次第でいろいろと立場が変わってくるなと思いました。

 

『さらざんまい』の描写も全面的に信頼できるものではないので、「吾妻サラ」がカッパ王国側の存在というのがミスリードで、実はカワウソが変身してましたなんていう展開もあるかもしれません……。

 

そもそも気になるのは「今まで決して超えられないと思われていたコチラとアチラを隔てる河を越えて、カワウソ帝国がカッパ王国に攻め入ってきたのだ」という描写で、その「河」が隅田川を意味するのなら、カワウソ帝国とカッパ王国の橋渡しをしたのは吾妻サラだ、ということになってしまわないでしょうか……?

 

その場合、吾妻サラはカッパ王国側の存在でありながら裏切り者でもあるということも考えられますね。

 

いずれにせよ、どうやら『さらざんまい』では「河童」という設定が「吾妻橋」や「浅草」という舞台より先に決まったようなので、「河童」に関する考察の必要性を感じています。

 

ただ吾妻橋は非常に歴史深く、調べていて自分でもおもしろかったので、やってよかったなと思っています。

 

『さらざんまい』、毎週おもしろいので楽しみです。

 

本考察を読んで、少しでもより『さらざんまい』を楽しんでいただける方がいらっしゃれば幸いです。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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*1:さらざんまい考察①行為としての<さらざんまい>――精神分析・解脱・ユング的世界観―― - 野の百合、空の鳥参照

*2:吾妻サラ=ケッピの妃に関しては吾妻サラが「弟橘媛」を下地にしているのではないかという妄想にも由来しています。もしサラの下地が「弟橘媛」なら、ケッピは日本武尊(ヤマトタケル)となるのですが、偶然の一致か、ケッピも日本武尊(ヤマトタケル)も王子(皇子)です。もし『さらざんまい』がヤマトタケルの逸話に忠実ならば、日本武尊(ヤマトタケル)が西は九州、東は蝦夷まで征服したように、ケッピが日本、ひいては人間を征服するという展開も可能性としてはなくはないかもしれません

*3:幾原邦彦・内海照子『さらざんまい上』(幻冬舎コミックス,2019)p045より引用

*4:幾原邦彦・内海照子『さらざんまい上』(幻冬舎コミックス,2019)p195参照

*5:幾原邦彦・内海照子『さらざんまい上』(幻冬舎コミックス,2019)p220より引用