2024ベストマンガを発表したい。
今年もあまりマンガを読めなかった。というより、マンガって多すぎる。
ゆえにかなり偏りのあるランキングになっているが、ご寛恕願いたい。なお、選び方としては、2024年に発表された作品からまずベスト10を決めたあと、惜しくもそこに入らなかった作品がちょうど10作品になったので、それなら、とベスト20にした。ただいずれにせよ、すべてオススメしたい作品であることに間違いはなく、あまり優劣はない。
なお、「このマンガがすごい!」や「このマンガを読め!」といった耳目を集めるランキングの上位に入った作品は意識的になるべく入れないようにしている。このような場末のブログで取り上げるまでもなく、世に知れているだろうからだ。
とにかく、いずれにしてもあくまで個人のベストであって、とにかく個人的に好きだったマンガたちだ。その代わり、個人的には胸を張って薦められる。要するにこれは「このマンガが好き2024」にほかならない。
※以下、性的描写やグロテスクな描写がある作品も平気で含まれるので注意されたい。とくに注意が必要と思われる作品には「※」を付すことにする。ちなみに、各作品のタイトルリンクは、それぞれの作品の試し読みへのリンクになっている。
- 2024ベストマンガ
- 20.菅野カラン『オッドスピン』
- 19. はやしわか『変声』
- 18. 岩飛猫『片白の医端者』
- 17. 香山哲『レタイトナイト』
- 16. 悠岡清人『夢岡アンダーザスキン』
- 15. 志波由紀『悪魔二世』
- 14. 一色美穂/水口尚樹『みずぽろ』
- 13. 晴川シンタ『百瀬アキラの初恋破綻中。』
- 12. 千景『ロゥブルーの標本』
- 11. amase『蛍火艶夜』※
- 10. 戸ヶ谷新『2世の器』※
- 09. 井上まい『長く短い夏』
- 08. 赤井千歳『100年の経』
- 07. 市川ヒロミ『二兎の除霊師』
- 06. 貞松龍壱『パンをナメるな!』
- 05. 売野機子『ありす、宇宙までも』
- 04. 果坂青『GALAXIAS(ガラクシアス)』
- 03. エチピク「プラスチックより透明な爆弾」※
- 02. 水田マル『アヤシデ』※
- 01. 南寝『午後の光線』※
- 番外編 ——既存のシリーズについて——
- 総評
2024ベストマンガ
20.菅野カラン『オッドスピン』
オッドスピン - 菅野カラン / 第一話 自分の土地 | モーニング・ツー
今年話題の地面師が主人公。
このマンガ、すこし、というかめっちゃ変。
シンプルな絵柄で、パッパッと、淡々と進んでいく。
それに併せて、パッパッと、淡々と罪を働いていく。
痛快です。
19. はやしわか『変声』
表紙がめっちゃいい。
表題作は、変声期の少年同士の繊細な心もようを描く。
苦悩も葛藤も少年のものであり、大人ぶった大人が、これに口出しできようもない。
18. 岩飛猫『片白の医端者』
フェチの詰まったマンガは良い。
とりわけいわゆる「人外」のそれは、マンガ的に予想だにしない運動を呼び起こすため、なお良い。
むろん、主人公の「医端者」もまた、ある種「人外」であり、それを愉しむわれわれ読者もまた「医端者」とも言い得るだろう。
17. 香山哲『レタイトナイト』
かなり別様のパラダイムのなかにあるマンガ。
たとえば『ダンジョン飯』を想定すれば思い浮かべやすいが、ある種のべつの世界というものを構成する楽しみというものがあり、しかし『レタイトナイト』は一風変わった “地図” をマンガのうえに描こうとしている。
どこへ連れて行ってくれるのだろうというスリリングさがこのマンガの妙だろうか。
16. 悠岡清人『夢岡アンダーザスキン』
https://comic-walker.com/detail/KC_005932_S/episodes/KC_0059320000300011_E
まだ単行本は出ていないが気に入っている作品。
タトゥー職人が主人公で、けっこうギャグ色が強い。
「墨を入れる」ということ自体、マンガと相性が良いように思われ、このアイデアに期待をかけている。
15. 志波由紀『悪魔二世』
悪魔を父親にもつ高校生・菊光が主人公。
シュールホラーといったテイストを帯びているが、けっこうシリアスな感じもある。
悪魔に操られた人間たちの奇行とまったく表情の読めない主人公のギャップなどに魅力を感じる。おもしろい。
14. 一色美穂/水口尚樹『みずぽろ』
第1話 長身と長身 / みずぽろ - 一色美穂/水口尚樹 | サンデーうぇぶり
「水球コメディー」と銘打ったおもろいギャグマンガ。
セリフ回しがまずうまいし、絵が動きすぎていたり、ぜんぜん動いてなかったりして絶妙。
たとえば3話で田沢さんという女の子が出てきて、凄い。2人の主人公はもちろん、みんなキャラもいい。
13. 晴川シンタ『百瀬アキラの初恋破綻中。』
第1話 天使と接近中。 / 百瀬アキラの初恋破綻中。 - 晴川シンタ | サンデーうぇぶり
アニメ化まっしぐらみたいな感じになっている。
晴川シンタは私の間違いでなければ以前は昔BLを描いていたはずで、この感じの絵柄に到達していることに納得感がある。
いまの時代のある種のラブコメの条件に、男の子をどれだけ(広い意味で)可愛く描けるかという勝負があり、このマンガも漏れなくその勝負に勝っている。
12. 千景『ロゥブルーの標本』
ロゥブルーの標本 - 千景 / 【第1話】心臓結晶 | マガポケ
絵柄がとても好き。
たぶんこういう感じの絵柄に完成される畑があって、それ自体、とても興味深いことがある。個人的には少し『月刊IKKI』などのことを思い出す。
むろん本作がそのような理路を辿っているとはかぎらず、本作には本作のオリジナリティがある。砂漠やオアシス都市というロケーションを採ったことは、この絵柄に素晴らしく見合っていると思う。
11. amase『蛍火艶夜』※
特攻隊員たちを主軸とした性的描写を含むBL。
それだけでテーマとして凄まじいが(これが新潮社から出てるのも少し驚く)、とてつもない熱量とフェチズムを感じる逸品。
絶対これはここにしかない作風であり、魂を感じる。個人的には相当気に入っている。
10. 戸ヶ谷新『2世の器』※
第1話 / 2世と器 - 戸ヶ谷新 | FEEL web|マンガの数だけ愛がある
宗教2世の高校生たちを描く「地獄脱出譚」。レーベルが BLUE comics であることは断っておいてもよいかもしれない。
とはいえ、ここに描かれてあることがただフィクションのためにあるものだとは断じて思わない。むしろ、自分が知ることと恐ろしく合致するところもあり、終始喉を塞がれるような想いをした。
心当たりがある人には無理に薦めない。ただ、個人的には、少しずつでもこういうものが世に知れていけば何か変わるのではという淡い期待も抱いてしまう。
09. 井上まい『長く短い夏』
『大丈夫倶楽部』の井上まいの新刊(一巻完結)。
作者コメントにあるように「夏・オカルト・秘密基地のロマンス」。
全体的にゆるやかな感じが漂っているところが本作の巧妙なところで、すーっとナイフが入ってくる感じがある。
夏の蜃気楼みたいな作品。
08. 赤井千歳『100年の経』
100年後、生成AIを使わない作家がいなくなった世界。
要するにSFであるわけで、しかしありうべく近未来を小説家を軸に描く筆致がおもしろい。
カンフル剤のようにして “ミューズ” があることに個人的には少し辟易してしまったが、それよりも言葉をめぐって未来にどう応答するかに興味がある。
07. 市川ヒロミ『二兎の除霊師』
こちらも単行本がまだ出ていない作品だが、たとえば上に引用したような場面が連発するのでついつい嬉しくなったしまう。
要するにマンガの形式に期待をかけていいつくりになっていて、とても好み。
それから単行本が出ていないといっても話はけっこう進んでいる。ずっと良いのでこれからも注目したい。
06. 貞松龍壱『パンをナメるな!』
労働キララ系。
いや、ぜんぜんキララではないのだが。
ひきこもりの19歳少女がひょんなことから鎌倉のパン屋で働く物語。
けっこうコマにキャラがぎゅっと入っていながら、スルスル読めるテンポ感で、不思議な読み味がある。
パンに真剣である割合は少ないが、だからこそパンをナメるなということなのだろう。
05. 売野機子『ありす、宇宙までも』
ありす、宇宙までも・No01「ありす、誕生」 | ビッコミ(ビッグコミックス)
売野機子だし、作品自体も少しバズっていたので知れていると思うが、それでもこのへんに入れたい(などと言いつつ去年も『インターネット・ラヴ!』を10選に入れているので、ふつうに売野機子が好きなだけかもしれない)。
けれどこういうマンガってここにしかないので……
04. 果坂青『GALAXIAS(ガラクシアス)』
GALAXIAS - 果坂青 / 【第1話】HelloWorld!! | マガポケ
マガジンのイデアみたいな作品。
マンガがスーパーうまい。クレバーで、ムダがない。
いわゆる「少年マンガ」として最高級の逸品なので、これから巻を重ねるのが楽しみ。
03. エチピク「プラスチックより透明な爆弾」※
(『COMICキスハグ vol.5」所収)
「やわらかくも美しくもない」がもっとも有名なエチピクの新作。
筆者の生々しく、まがまがしくすらある詩性が遺憾なく発揮された傑作。
関係ないが、たとえば『偽物協会』などを読んでみるといろいろ分かるのではないだろうか。関係ないのだけれど。
「水の中に水が存在しているように」ってこれのことで、世界が屈折するのもたぶんそのせいだ。
ちなみに、『キスハグ』は最高の雑誌なので全部買った方がいい。
02. 水田マル『アヤシデ』※
ずっと魂で描かれている。
水田マルといえば、「アフタヌーン四季賞2022夏」佳作の「77:PRINCESS」で、このときのテーマ系を連載にうまく敷衍したものが『アヤシデ』だと勝手に思っている。
肥大化した手とは、すなわち暴力のことでもあるが、自在に変形しながら血生臭い場面を踊るように渡る筆致は、絵柄ともこのマンガのテーマともうまく調和しているように思う。
巻を経るごとにチャレンジがあり、柔軟にマンガ的モチーフを変形させていくさまは、けっこう圧巻である。4巻とか、ここに来てこういう弾もあるのか、と思った。
5巻で終わるらしいことが書いてあり、そういう設計で作られたのかなと推察し、むしろ好感を持つ。
魂の逸品。
01. 南寝『午後の光線』※
率直に喰らってしまった。
まだ思春期の学生同士の、あるいは「男の子」同士の、未分化な死と性の生々しさがずっと漂うような作品であり、ある意味でクリシェのように感じる人もあるのかもしれないが、そうだとしてもうまく描けすぎている。
なんというか、自分が知っている思春期というのはこれでしかない。こういうふうにしか世界は観測されないのであり、こうすることでしか生きられない。
ほんとうの夏があるとしたらこういうのだろう。
番外編 ——既存のシリーズについて——
今年は去年と異なり、羅列するタイプの紹介はしなかったが、それでも少し、既存のシリーズについても、どうしても触れておきたいものだけ触れておく。
ちなみに、自分のなかのオールタイムベストマンガは基本的にずっと『HUNTER×HUNTER』である。
たみふる『付き合ってあげてもいいかな。』※
もう一生言っているのでさすがにいいかなとも思うが、やっぱり今年も『つきかな』がおもしろかった。
およそ愛のすべてがここにある。
たくさん読まれたほうがよいと思うので、念推し。
市川春子『宝石の国』
明らかに、マンガのひとつの到達点ではある。
『宝石の国』が今後いったいどのように語られるかに、何かが懸かっている気がする。
岩明均『ヒストリエ』
今年の「新刊」のなかで一番おもしろかったのはまちがいなく『ヒストリエ』である。
思わず最初から読み返し、さらにもう一周してしまった。
なんかもう分からない。
総評
まったくもって自分の好みで選んだので、ジャンルとしてはいわゆる「BL」に区分される(されてしまう?)作品が多くなったと思う。ただそうだとして、これらが2024年のベストマンガであることに疑いの余地はない。
やはりこのようにして、別軸のランキングを打ち出していくことでしか、何かに抗するということはありえないのではないか。
いずれにしても、マンガって多すぎるし、みんなうますぎるので、上記以外にもたくさんこのマンガがおもしろかった!ということがありうるだろう。
そう思うのなら、ぜひあなたのマンガベストをどこかに記しておいてほしい。
ベスト読み切り↓
昨年のベストマンガ↓
2025年の各ベスト↓