2024年のベストYouTubeを発表したい。
と言ってもやはり、ごくごく個人的な「ベスト」以上のものではない。YouTube動画というのもまた、多すぎるのであり、他人のトップ画面を見せてもらえば分かるように、YouTubeのオススメ欄はあまりにも似通った動画で固まりすぎている。
さておき、2020年の9月にPremiumに入ってから、14730時間YouTubeを再生したらしい。4年と3か月≒1490日でこの時間なので、平均してだいたい1日10時間はYouTubeを流していたことになる。
ただし、先日の日ごとの再生時間が1日24時間を超えるなどしており、おそらくこの総計時間には、2倍速で見ていたり、複窓していたりする時間も含まれていると推察される。
もちろん、ほかにもアニメやらマンガやらを大量に摂取しているし、そもそもYouTubeは作業のおともに流していることが多いので、そんなに毎日真剣に見ているわけでもない。
それでもそこらへんの人よりはたくさん動画を見ていると思うので、記録のためにも、個人的に印象に残った動画を以下に記しておきたい。
- 1. Kazu Languages
- 2. アートゥーン! /Artoone!
- 3. 旅野そら(学術系VTuber)
- 4. VCR GTA3
- 5. にじさんじ
- ベストアニメーションPV/MV/SF
- 総評
1. Kazu Languages
ひとつ目のチャンネルはKazu Languagesである。
言語系YouTuberの動画を少しでも見たことがあれば、おそらく誰のオススメにも出てくるだろうし、TikTokなどでも頻繁に流れてくるはずである。
Kazuは、現時点で13ヶ国語を話せるいわゆるポリグロット(polyglot)で、英語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、ドイツ語、アラビア語、ロシア語、インドネシア語、トルコ語、ポーランド語、中国語、韓国語、タイ語が話せるという。
もちろん、各国語ごとに話せるレベルにも差異はあるし、上記の言語は基本的に会話ができるレベルではある。かなり込み入った議論はできない言語もあることは本人もたびたび口にしているし、むしろ挨拶レベルなら60ヵ国語くらいは可能だという*1。
言語習得の方法としては、ベースを紙の教科書などで学びつつ(ニューエクスプレスシリーズなど)、基本的な例文をいくつかいえるようになったらOmeTVという世界の人々とランダムにオンライン通話ができるアプリで会話をしまくっているらしい*2。
Kazu Languagesの動画の内容は、そのOmeTV上での会話と外国人たちのリアクションがメインになっており、「日本人」が急に外国語をペラペラと話し始めて相手方が驚くさまが面白いコンテンツになっている。最近は実際に外国に赴いて現地の人たちとさまざまな言語で会話する動画も増えている。
したがって、言語それ自体についてはもちろんのこと、人種的ステレオタイプ等、さまざまなことを本当によく考えさせられる。正直、Kazuがペラペラと外国語を話し始めた途端に相手方の表情が和らぐ一瞬は、こちらも爽快な感じを受けるが、いろいろな考えがめぐり、難しいなあという気持ちにもなる。
ただ、Kazu本人が極めて人柄がよく、素直で、「リスペクトを持って」外国人に接している様子が視聴者にウケているのはコメント欄などから見て取れ、比較的「治安のよい」チャンネル環境に、見ている側も救われている感じがする。
もちろん、インターネットの治安がそんなに良いわけがないのだから、Kazuはかなりコントロールして、世界の人々と友愛があり得るのだというイメージを見事に形成してみせていると思う。それは素晴らしい努力だし、そもそも家に引きこもって第3言語にすら苦労している自分などよりよほど立派だと思う。
今年もっとも刺激を受けたチャンネルだった。
おまけ : EASY LANGUAGES
ついでなのでいつもお世話になっている言語系チャンネルを紹介しておく。
Easy Languages シリーズである。YouTubeで言語を習得しようとすると、たぶん多くの人がこのシリーズに行き着くのではないだろうか。
上に貼ったのは、Easy Italianだが、ほかにもEasy French, Easy German, Easy Spanish, Easy Russian等かなりの種類がある。動画は主に、現地の人の街頭インタビューや基本的な会話や表現の紹介などから成り立っている。
聞き流しているだけでも心地よく、私は今年、少しイタリア語に関わりがあったのでEasy Italianをよく聞いていた。このシリーズを毎日シャドーイングするだけでも、結構勉強になると思う。
2. アートゥーン! /Artoone!
藝大出身の、専門はバラバラな6人が、それぞれの長所を活かしつつ、主にショート動画で活躍しているチャンネル。
人気なのは、ランダムで選んだ「画材」で絵を描く動画や、言葉で指示された通りにピアノを演奏する動画、有名音楽の譜面や有名画家をアキネーター方式で当てる動画など。
かなり戦略的で、「右左どーっち」とか「アキネーター」とか、既存のショート動画でバズっているフォーマットに則ってそこに藝大色や学術色をいい感じに混ぜ込んでいる。
あえて他チャンネルの名前を出して分かりやすく言えば、QuizKnockの藝大版みたいなものである。むろん、本人たちはほとんどが藝大をすでに卒業している人間であって、本人たちもそれを分かっていて正直に動画タイトルには「藝大卒で~」と入れているのだと思う。
後述するが、今年はいわゆる「学術系」の波が来ているような気もしたので、けっこう注目している。2024年末現在では登録者3.6万人ほどだが、今後もっと伸びる気がする。
3. 旅野そら(学術系VTuber)
衆院選の開票速報LIVEでバズりにバズって話題となった旅野そら。
いまは動画を消してしまったので、主にライブ配信で活躍している。かつての配信には北朝鮮に行ってみた動画などもあり、元戦場カメラマンという過去の経歴などを活かしたアクティヴな政治的コンテンツを発信している。
政治的コンテンツを発信しているVTuberならそれなりにたくさんいるが、きちんとバズって、ここまで観客をリアルタイムで集めている人は、私は、初めて知った。
おまけ:学術Vの流行?
たとえば今年は、航空宇宙工学の知見を活かしてロケットの打ち上げ解説を行っている宇推くりあや「博士(理学)」の学位を活かしてノーベル物理学賞の「同時視聴」を行った北白川かかぽ、芸術・芸能文化に精通して美術館・博物館ともタイアップしたHololive所属の儒烏風亭らでんなど、(昔から有名な人もさらに)耳目を集めた学術系VTuberが目立った。
ほとんど「中の人」文化に染まっているVTuber業界において、数が増えて大手にも「学術系」が属するようになったいま、なるほどこれからも学術Vが注目されうるのかもしれない。
VTuberなんて、いまや無限にいるので、ほかにもこういう専門の人がいて~と、詳しい人は無限に紹介できるのだろうが、上記の人々が今年とくに目立ったということ自体が2024年のメルクマールになっていると思う。
要するにVTuberが人間に成りつつあるということなのだろう。一方で、私はそれでまったくかまわないと思う。というのは、たとえVTuberと呼ばれるものが「中の人」文化に染まり切ったとしても、ガワが一枚あるという最後の砦が個人的には超重要だと思っているからだ。
4. VCR GTA3
12/2 19:00〜
— VAULTROOM (@room_vault) 2024年11月30日
VCR GTA
近未来へようこそ🔐✌️ pic.twitter.com/2zIE2jaPGc
VCR GTAとは、「ゲーミングコミュニティ「VAULTROOM」とプロゲーミングチーム「CrazyRaccoon」が主催するストリーマー向けの期間限定ゲームイベント」である*3。
などと、文字で説明しても何も伝わらないのがGTAだ。いや、GTAというのはほんとうにはベースとなっている、「グランド・セフト・オートV」の略称なので、それともまったくことなる。
要するにリアルタイムの即興劇であり、あるいはほとんど劇ならざる劇であり、ドラマであり、人生であるのがGTAだと言えるだろう。VCRの場合は、芸能人(たとえば今回は俳優の北村匠海やラッパーのralphなども参加していた)から、顔出しのストリーマー、VTuberまで、事務所の垣根を越えてかなり多様な人々が参加していた。
つまりそれは、あえて言えば、種明かしの済んだ「トゥルーマン・ショー」であり、恋愛に特化しない「テラスハウス」であるのだが、この差異に、いまの時代なりの賭け金があるように思われる。
答えは自分のなかでも明確ではないが、人間が人間を「鑑賞」するということの倫理の瀬戸際、人間が人間によって「感動」させられるという友愛と暴力の境界について、当世においてはこれが限界なのだと思う。
この波打ち際の境界線が、果たして手前に引かれ直すのか、それとも奥にひかれ直すのか、はたまた、こうした海岸線上の戯れこそ馬鹿馬鹿しいのだと、フィクションが一蹴してくれるような時代が来るのか。
答えはまだない。
5. にじさんじ
後半とドン被りで申し訳ないが、しかし正直今年一番時間を費やしたのはにじさんじだった。
上記とほぼ同じことではあるが、とりわけ今年はにじさんじGTAがあったこともデカかった。
世間的にはおそらく、ルンルンがデビューしたことは、ひとつの事件だったのではないだろうか。
個人的には、今年はかなり内部に入り、魂の「推し活」をしていた。
具体的には、栞葉るりをVTAのときから応援していたので、ふつうに栞葉るりのファンクラブに入り、ファンクラブ限定のファンミーティングに参加し、栞葉本人とも(数分間だけだが)直接話すことができた。推し活用のアカウントも専用に作り、配信ごとに心からの感想を書き込み、グッズやボイスなどを買い漁り、にじさんじオンリーの同人誌即売会「にじそうさく」にも参加した。
やってみて初めて「推し活」なるものの片鱗を見ることができた気がする。
やはりオタクは、頭でっかちな御託を並べるよりも前に、さっさと魂の「推し活」をしたほうがよい。
ベストアニメーションPV/MV/SF
なお、ベストアニメーションPV/MV/SFについては再生リストにまとめたので、そちらを見てほしい。
総評
YouTubeというのも、10人に聞けば、10人から異なる印象が返ってくるコンテンツだと思う。
だから本当には何も総じて言えることなどないのだが、少なくとも私は、いまのYouTubeがあるおかげで、いま在る私になっているように思う。
来年も充実したYouTubeライフが送れたら嬉しい。
昨年のYouTube↓
2025年の各ベスト↓
*1:たとえば最近では、同じく言語系YouTuberのだいじろーのインタビューでこれについて語っている。以下を参照。13ヶ国語を話す日本人の秘密を徹底解剖してみたら凄かったw
*2:詳しい勉強法については以下を参照。Kazu Languages『ゼロから12ヵ国語マスターした私の最強の外国語習得法』SBクリエイティブ、2024年。いまamazonで見たところ「ベストセラー1位 - カテゴリ 外国語学習法・旅行会話集」となっている。