「世界樹ユグドラシル」~天上の層~
今回は前回の本編考察⑯につづき、『ダリフラ』と「北欧神話」との関連、中でも「世界樹ユグドラシル」と「プランテーション」との関連について考察していきたいと思います。
ユグドラシルとは何か
まずは例によって引用します。
ユグドラシル(古ノルド語: Yggdrasill, [ˈyɡːˌdrasilː])は、北欧神話に登場する1本の架空の木。ユッグドラシル、イグドラシルとも表記する。
世界を体現する巨大な木であり、アースガルズ、ミズガルズ、ヨトゥンヘイム、ヘルヘイムなどの九つの世界を内包する存在とされる。そのような本質を捉えて英語では "World tree"、日本語では、世界樹(せかいじゅ)、宇宙樹(うちゅうじゅ)と呼ばれる。*1
つまり北欧神話においてユグドラシルとは世界そのものともいえるのですが、注目すべきはその特徴です。
三つの根が幹を支えている。『グリームニルの言葉』第31節によると、それぞれの下にヘルヘイム、霜の巨人、人間が住んでいる。また『ギュルヴィたぶらかし』での説明では、根はアースガルズ、霜の巨人の住む世界、ニヴルヘイムの上へと通じている。*2
以上の引用にあるように、ユグドラシルは主に世界を3つの層に分離しています。
北欧神話にも数種類の原典があり、それぞれによって少し異なるのですが、主にその3つの層とは、神々の住む天上の層、人間や巨人の住む地上の層、怪物などが住む地下の層の3つのことを指します。
この3つの層というものが『ダリフラ』世界にも反映されているのではないか、というのが今回の主題なのですが、3つの層はそれぞれ何に対応しているのか、もし対応しているのならば何が言えるのか、それを以下で考えていきたいと思います。
ユグドラシル∽プランテーション
形と構造の類似
プランテーションの柱=樹の幹
ユグドラシルの3つの層との関連を見る前に、「プランテーション」をユグドラシルと見立てたそもそもの発端(あるいは理由)を見ていきたいと思います。
「プランテーション」がユグドラシルに見立てられるのではないかという発想は、主にその形と構造からきました。
単純に言うならば、「プランテーション」ってユグドラシルの形に似てない?ということです。
これは多くの方にうなずいていただけると思うのですが、そもそも「プランテーション」の中央部分は樹の幹のように見えます。
まずはこの形の類似が、「プランテーション」をユグドラシルに見立てる理由になり得ると考えられます。
樹のエネルギー補給構造=プランテーションのエネルギー補給構造
さらに「プランテーション」のエネルギー供給の構造も、「プランテーション」をユグドラシルに見立てる理由になり得ます。
上の画像は、"Current state of13th Plantation Magma energy stockpiling" とある通り、13プランテーションのエネルギー貯蓄状況を示した図です。
画像の右を見ればわかるように、マグマエネルギーの貯蔵量が、枝分かれしている線の根元の方から貯まっているような図式で描かれています。
これはちょうど樹が根元から水を吸い上げるような図式と似ています。
つまりここにははっきりと「プランテーションを樹」に見立てるようなイメージが表れていると言えるでしょう。
このような「プランテーション」の構造との類似も、「プランテーション」をユグドラシルに見立てる理由になり得るでしょう。
「プランテーション」という名前
また、そもそも「プランテーション」という名前自体も樹ないしは植物のイメージを想起させます。
一般にプランテーションと言えば、それは単一作物を大規模に栽培する農園あるいは手法そのものを意味します。
したがってそのプランテーションという語も、厳密な意味では樹を意味するわけではありませんが、「プランテーション」を「ユグドラシル」という単一の樹に見立てるイメージを助けてはくれます。
しかしまた、それとは別にプランテーションという語は不気味な想像を惹起させます。
すなわち、一般にプランテーションという語が単一作物を栽培する場所ならば、『ダリフラ』の「プランテーション」でも「単一作物」に当たる存在が栽培されていると受け取れるのですが、「単一作物」として捉えられるのは「オトナ」や「コドモ」という人間にほかなりません。
このことから想像されるのは、「オトナ」や「コドモ」が上位存在に捕食されるためのエサにすぎないのではないかということです。
叫竜のコアの内部に人間らしきものが入っていると判明した今では、その「上位存在」とは叫竜であり、「オトナ」は叫竜のエサでありそのために「プランテーション」で栽培されているなどとも予想もできますが、あまり根拠はありません(もちろんそう想像するとおもいしろいですが)。
このことは「オトナ」が不老不死であるかもしれないこととも関連するので、また後で見ていきたいと思います。
ともかく、以上のような形や構造、そして「プランテーション」という名前は樹のイメージを彷彿とし、またそれらのことが「プランテーション」をユグドラシルに見立てる理由にもなり得ると考えられます。
そしてここからが本題なのですが、それでは前述したようなユグドラシルが隔てる3つの層はどのように『ダリフラ』世界に反映するのか、以下ではそれを見ていきたいと思います。
天上の層
「天上の層」∽「ミストルティン」
3つの層のうち、まずは「天上の層」の反映を見ていきたいと思います。
プランテーションにおける「天上の層」は、「プランテーション」では「ミストルティン」に対応すると考えられます。
そのように考える理由は単純に、ユグドラシルの最上部が「天上の層」ならば、「プランテーション」の最上部である「ミストルティン」が「天上の層」に対応するからです。
しかし「天上の層」が神々の住む場所であることを考えると、「ミストルティン」も神々に対応する存在が住むはずですが、「ミストルティン」に住むのは神ではなくコドモたちです。
これは一見矛盾するように思えるのですが、『ダリフラ』の世界観を考えると、「ミストルティン」を「天上の層」に対応させることは不自然ではなく、むしろ自然なことだと考えられるのです。
そのように「天上の層」∽「ミストルティン」と考える理由は主に2つあります。
①供儀の体系
1つ目は、供儀の体系を体現しているからという理由です。
供儀とは、単純に言えば生け贄です。
生け贄とは、一般に共同体のために何かよいことがあるように神や霊に頼む代わりにささげられる犠牲のことですが、『ダリフラ』世界においてコドモたちはこの生け贄に当たります。
なぜならコドモたちは、一般的な生け贄と同様に大切に育てられ、食物も十分与えられ、ある意味で清められており、そしてオトナのために死にゆく運命にあるからです。
生け贄がどのような扱いを受けるのか列挙するにはスペースが足りないので割愛しますが、特に人が供物としてささげられる人身御供では、大きな組織から大切に育てられ、また少女が供物になるときには処女であることが重要視されることがあります。
そして生け贄であるからには最後には死んでゆくわけですが、『ダリフラ』世界のコドモたちもオトナのために戦い、オトナのために死んでゆきます。
そしてこの生け贄になれる条件として、「ミストルティン」が「天上の層」という最上層に位置していると考えられます。
つまり、「ミストルティン」が最上層に位置するのは、それが神がいる天に近い位置であり、また共同体の最上位に位置するくらい大切な扱いをしていることを象徴するためなのです。
このように「ミストルティン」が「天上の層」という最上層に位置してはじめて「供儀の体系」が出来上がるので、「天上の層」∽「ミストルティン」とすることは矛盾というよりむしろ自然なことだと考えられます。
②「ミストルティン」が「ヴァルハラ」に見立てられる
「天上の層」∽「ミストルティン」と考える2つ目の理由は、「ミストルティン」がヴァルハラに見立てられるからという理由です。
そしてそのヴァルハラは、「天上の層」の中に位置しています。
つまり、「ミストルティン」はヴァルハラに見立てられ、そのヴァルハラは「天上の層」の中にあるから結局「天上の層」∽「ミストルティン」と言えるのではないかということです。
「ミストルティン」がヴァルハラに見立てられるとする理由は以下の2つです。
- 北欧神話で言うところのミストルティン(=ヤドリギ)はヴァルハラに生えているから
- ヴァルハラは戦いに備えた戦士たちが集まる場所だから
どういうことか、以下で項目ごとに説明します。
②-1. 北欧神話で言うところのミストルティン(=ヤドリギ)はヴァルハラに生えているから
ミストルティンというのは、以前の考察でも述べたように、北欧神話で神バルドルを死に至らしめた武器の名前です。
ただしこのミストルティンというのはもともとヤドリギのことで、ヤドリギが投げられ矢の役割を果たし、バルドルは死んだのでした。
そしてこのミストルティンは、「天上の層」の国の一つであるアースガルズにあるヴァルハラという場所に生えています。
つまり、北欧神話のミストルティン(=ヤドリギ)はヴァルハラにあり、そのヴァルハラは「天上の層」の中にあるのだから、結果的には『ダリフラ』の「ミストルティン」を「天上の層」と見立てられるのではないかと考えられるということです。
②-2. ヴァルハラは戦いに備えた戦士たちが集まる場所だから
「ミストルティン」∽「ヴァルハラ」とする2つ目の理由は、ヴァルハラは戦いに備えた戦士たちが集まる場所だからということです。
ここから言えることは大きいので、どちらかと言えばこちらがの方がより重要です。
ヴァルハラには戦死した勇者の魂であるエインヘリャルが集められ、世界の終焉ラグナロクに備えているのですが、エインヘリャルとは何か、わかりやすいのでWikipediaからの引用を見ていただきたいです。
エインヘリャル(古ノルド語: einherjar)は、北欧神話でいう戦死した勇者の魂。日本語表記では他にエインヘルヤル、アインヘリヤルもみられる。「死せる戦士たち」とも呼ばれる彼らは、ヴァルキューレによってヴァルハラの館に集められる。
ラグナロクの際に、オーディンら神々と共に巨人たちと戦うために、彼らは毎日朝から互いに殺し合い、戦士としての腕を磨いている。その戦いで死んだものは、夕方になると皆生き返り、傷ついた者も同じく皆回復して、夜には盛大な宴を行う。殺しても翌日蘇るイノシシのセーフリームニル(ゼーリムニルとも)の肉を食べ、ヤギのヘイズルーンの乳で作った酒をヴァルキリーの酌で楽しむ。そして、翌朝になると再び戦いあう。
まず単純に、「巨人との戦いに備えた戦士たちが集まる場所ヴァルハラ」というのは、「叫竜との戦いに備えたパラサイトたちが集まる場所ミストルティン」に対応します。
また少し苦しいですが、「エインヘリャルがヤギのヘイズルーンの乳で作った酒を飲む」というのは「パラサイトたちが牛乳を飲む」ということに対応しなくはありません。
さらに言えば、「ヴァルハラがオーディンのおさめる宮殿である」ということは「ミストルティンのコドモたちがオーディンに見立てられるフランクス博士*3の監視下にある」ことに対応しているともいえます。
以上のような理由から、「ミストルティン」はヴァルハラと見立てられるのではないかと考えられます。
総合すると、上述したような
- 北欧神話で言うところのミストルティン(=ヤドリギ)はヴァルハラに生えているから
- ヴァルハラは戦いに備えた戦士たちが集まる場所だから
という2つの理由から「ミストルティン」はヴァルハラに見立てられ、ヴァルハラは「天上の層」の内部にあるのだから結局、「天上の層」∽「ミストルティン」と言えるのではないかと考えられます。
「天上の層」∽「ミストルティン」から言えること
「天上の層」∽「ミストルティン」から言えることはいろいろありそうですが、例えば以下のようなことが考えられます。
- 『ダリフラ』世界において魂と肉体は分離しえる
- 『ダリフラ』世界でもやがてラグナロクを迎える……etc.
他にもいろいろなことが考えられますが、一番根拠がありそうで大きな話は「『ダリフラ』世界において魂と肉体は分離しえる」という話なので、これについて少し考えてみたいと思います。
『ダリフラ』世界において魂と肉体は分離しえる?
この話の端緒となったのは第15話の「プランテーション」爆破のシーンです。
この「プランテーション」爆破のシーンでは、「プランテーション」に対して「バックアップ完了」という措置がとられ、そののちに七賢人が「肉体という檻から解放してやれ」という言葉を発します。
このことからはオトナたちはバックアップをとれる存在、つまり魂だけを分離してストックしておける存在であることが示唆されているように思えます。
ただし、肉体と魂を分離できるのはオトナだけではなくコドモもではないでしょうか。
そう考えるのは、前述したように「ミストルティン」をヴァルハラに見立てることができるからです。
「ミストルティン」がヴァルハラに見立てられるなら、そこに住むパラサイトは戦士の魂エインヘリャルに見立てられるとも言えます。
もしもパラサイトたちの魂が肉体から分離できるのならば、様々なことに説明がつけられます。
例えば、魂を精神と言い換えることが許されるならば、オトナたちの魂をコドモに注入することもできます。
こうすれば、コドモが人権もなにもなくオトナたちのために犠牲になっていくという倫理観も正当化できなくはありません(現実的には到底正当化できているとは思えませんが)。
というよりむしろ「オトナ」とはコドモの魂が、戦わなくてもよいオトナの肉体に転生したものを指すのかもしれません(つまりオトナとコドモの違いは肉体の違い)。
また、コドモたちの肉体は黄血球のせいなのか老化しやすいようですし、優秀な魂まで短命のまま殺してしまうのはオトナの立場からすれば非合理的です。
まずフランクスが肉体をもってしか操作できないというのが非合理的なのですが(機械で操作できれば合理的?)、肉体が使い捨てにできるのなら、まだ合理的なようにも思えます。
また、肉体と魂を分離できる技術がもし確立しているのならば、前述したような「プランテーション」でオトナの肉体を栽培しているというのも、肉体を叫竜に引き渡して、代わりにマグマエネルギーを分けてもらうための、ある種政治的交渉のためのものだともいえるかもしれません。
妄想はふくらみますが、パパたち、あるいは七賢人が心身二元論の考えを持ち合わせていることは確かそうです。
続く……
今回記事遅れて申し訳ないです。
しかも長くなってしまったので後編へ続きます……。
後半では残り2つの層、「地上の層」と「地下の層」について考えていきたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回お会いしましょう。
<主要参考文献>
『ゲルマン神話【神々の時代】上』ライナー・テッツナー 著 手嶋竹司 訳
『北欧神話』H・R・エリス・ディヴィッドソン 著 米原まり子 + 一井知子 訳
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