北欧神話のモチーフ
第15話冒頭「フリングホルニの建造も着実に進んでいる」と七賢人の一人が言いますが、「フリングホルニ」とは北欧神話に登場する神バルドルが所有する船の名前です。
本編考察⑨でも紹介した通り、『ダリフラ』ではすでに「ミストルティン」という北欧神話にまつわるモチーフが登場しています。
今回は、以上のような北欧神話にまつわるモチーフが他にも登場しているのか、登場しているとすればそれはどのように『ダリフラ』に関わっているのか、北欧神話と『ダリフラ』との関係を考察していきたいと思います。
「フリングホルニ」
フリングホルニとは何か
はじめにフリングホルニについて考えてみたいと思います。
フリングホルニがどのようなものなのか、まずは概要をつかむためにWikipediaを引用したいと思います。
フリングホルニ(古ノルド語: Hringhorni)は、北欧神話に登場するバルドルの所有する大船。世界のいかなる船よりも大きいとされる。
『スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』は次の経緯を伝えている。ロキの企みによりバルドルが殺された後、神々はバルドルをフリングホルニで船葬しようとした。しかし、その重さゆえに誰も船を海へ流すことができなかった。そこで、神々はヨトゥンヘイムに使者を送り、女巨人のヒュロッキンを呼びよせた。ヒュロッキンは船首へ回ると一突きで船を動かすことができたが、あまりにも乱暴であったためころが火をふき大地が震えた。それに怒ったトールがミョルニルを持ち出してヒュロッキンの頭を打ち砕こうとしたので、オーディンをはじめとする神々はこれを鎮めなければならなかった。*1
以上のように、フリングホルニは北欧神話においては殺された神バルドルを運ぶために使われるわけなのですが、『ダリフラ』ではどのように用いられるのでしょう?
「叫竜」を土にかえすためのもの?
手掛かりになりそうなのは七賢人のセリフです。
「いよいよだ。グランクレバスの制圧がなされれば悲願の時は近い」
「フリングホルニの建造も着実に進んでいる」
「双方がそろえば、奴らも土へとかえる」
「時は来たのだ!」
「双方」というのは、「グランクレバス」と「フリングホルニ」でしょうから、この両者によって「奴ら」が「土へかえ」されることになるというのはわかります。
問題は「奴ら」が何のことか、ということです。
もちろん真っ先に思い浮かぶのは「叫竜」です。
もしも、「奴ら」が「叫竜」のことならば、「かえる」という言葉からは「叫竜」が地中から来たのだろうと予測できますし、七賢人たちの目的の一つは「叫竜」を地中へかえすことだということになるでしょう。
ただもととなった北欧神話を眺めると、本当にそれだけだろうか?と疑ってみたくもなります。
「ミストルティン」によって殺された「バルドル」を流すもの?
北欧神話において、フリングホルニはバルドルという神を運ぶために使われました。
もしも『ダリフラ』でも北欧神話が尊重され、これになぞらえて「フリングホルニ」が使われるのだとしたら、「フリングホルニ」は「バルドル」を運ぶはずです。
さらにバルドルは「ミストルティン(=ヤドリギ)」に射抜かれて殺された神です。
以前の考察では、『ダリフラ』世界においては「パパ」が「神」と同様の扱いを受けていることなどから、「ミストルティン」に射抜かれる神=バルドルは「パパ」ではないかという仮説を立てました。
つまり、この仮説になぞらえるのならば、最終的に「フリングホルニ」は「パパ」を運ぶことになります。
しかし「パパ」には七賢人も含まれ、七賢人が自分たちを「奴ら」と呼称するのは不自然ですから、あるとすれば、七賢人のたくらみとは違った用途で「フリングホルニ」が用いられ、結果的に「パパ」たちが「フリングホルニ」で運ばれてしまうという展開です。
以上のようなことはもちろん予想にすぎないのですが、やはり「フリングホルニ」も「ミストルティン」も同様に北欧神話由来の用語であることを考えると両者が今後『ダリフラ』本編でも絡んでくるのではないか、ということは想像に難くありません。
そしてこの両者にフランクス博士が介入してくるということも考えられます。
「オーディン」=フランクス博士?
両者の類似点
オーディンは片目がなく、長いひげをたくわえ、槍(グングニル)を持った姿で描かれることが多いですが、フランクス博士も同様に片目が機械仕掛け(?)であり、ひげをたくわえ、常に杖を携えています。
また、オーディンはミーミルの泉で知識を得る代償に片目を差し出すほど知識に貪欲ですが、フランクス博士も「フランクスのみならず、敵対する叫竜への関心も強い」*2とあるように知的好奇心旺盛です。
また15話でフランクス博士は七賢人の一人から「ヴェルナー(Werner)」とドイツ圏の名前呼ばれていましたが、オーディンの独名は「Wotan, Wodan (ヴォータン、ヴォーダン)」であり似ていなくもありません。
以上のようにオーディンとフランクス博士の間にはいくつかの類似点があるのですが、もしフランクス博士がオーディンに見立てられるのならば、フランクス博士はかなり重要な立ち回りをすると予測できます。
詩の蜜酒
詩の蜜酒とは?
オーディンは北欧神話の主神であり、数多くの逸話があるのですが、『ダリフラ』との関連に注目して、「詩の蜜酒」の逸話との関連を考えてみたいと思います。
「詩の蜜酒」とは、これを飲めば誰でも詩人や学者になれるという飲み物で、オーディンは知的好奇心の旺盛さゆえにこれを求め、最終的には奪い去ることに成功したのでした。
「蜜酒」とは読んで字のごとく、一般にハチミツを原料とする蒸留酒なのですが、この「詩の蜜酒」にはハチミツのほかに「クヴァシル」という神の血が入っています。
「クヴァシル」というのは特殊な神で、アース神族とヴァン神族という2つの神族の戦争の調停の際、2つの神族の神々がはいた唾液から休戦の証としてつくられた神です。
したがって「詩の蜜酒」とは、元をたどればアース神族とヴァン神族の休戦の印となるものだったのです。
これは『ダリフラ』世界を読み解くヒントになり得ると考えられます。
人類と叫竜、2つの種族の架け橋であるゼロツー
「詩の蜜酒」の逸話を読んで連想したのは、ゼロツーがハチミツを好んで食べるということと、ゼロツーが人類と叫竜という2つの種族の架け橋であるということです。
ゼロツーがハチミツを食べるというのは「詩の『蜜』酒」→ハチミツという単なる連想ゲームなのですが、これはひょっとすると連想ゲーム以上の価値をもつのかもしれません。
つまり、ゼロツーは人類と叫竜との戦いを調停するという意味で「世界を救う鍵」となり得るのではないかということです。
「世界を救う鍵」
9'αが言っていた「世界を救う鍵」とは何を意味するのか疑問に思っていましたが、もしかするとゼロツーは「詩の蜜酒」の元となった神「クヴァシル」のように、2つの種族の休戦の証となり得るのかもしれません。
もし「フリングホルニ」で無理やり叫竜をグランクレバスにぶち込むなどするならば、あまり平和的な形でない暴力的な「休戦」の形が考えられますが、そこに「世界を救う鍵」であるゼロツーが絡んでくるのは確かでしょう。
しかしここで改めて疑問に思うのは「叫竜」とは何かということです。
コアから出てきたのは本当に人間か?
これって人間なんでしょうか?
単純に連想するのは、落第したコドモのパラサイトの成れの果てがコアの中のこの「人間らしき何か」なのだ、ということなのですが、本当にそうでしょうか?
もちろんこれがコドモの成れの果てである可能性も十分にあり得ます。
ただそうだとすると、パパたちが自分で創ったコドモをわざわざ敵の養分にして、さらに手間をかけてそのコドモの成れの果てをフランクスで殺すという一見矛盾するような事態になります。
竜人?
前述したような矛盾を解決する手段として、そもそも叫竜は兵器であって、あのコアの中で「竜人」が叫竜を操っているという仮説を考えてみました。
つまり、フランクスという兵器のコアに人間が乗るように、叫竜という兵器のコアには「竜人」が乗っていると考えたわけです。
このように考えた直接のきっかけは、「詩の蜜酒」の材料となった「クヴァシル」ができた原因であるアース神族とヴァン神族の戦争が、同じ神という種族間で起こったということ、そしてその戦争後両種族間で人質の交換が行われたことにあります。
つまり、人類と叫竜の戦争も、実は人類と「竜人」という人間同士の争いであり、ゼロツーの母親らしき何かは人質として人類側にとらえられた「竜人」ではないかと考えたのです。
たしかに叫竜がフィクションであると言われればそれまでなのですが、叫竜が「竜人」の文明の産物なのだと言われればあのような叫竜の生態の多様性も納得できますし、叫竜がマグマエネルギーを求めるのも人類と「竜人」とのエネルギー戦争としてまとめられますし、「竜人」が敵なら人類も人類間でのエネルギーの争いをせずに本編のような人類と叫竜との戦いのようになるななどと考えられます。
「竜人」というのは私の単なる妄想の産物なのであまり気にしなくてもよいのですが、やはりコアの中の「人間らしき何か」をコドモだと捉えると違和感が残りますから、上述したような矛盾を解決する何かを考える必要はあるのかもしれません。
コアから出てきたものが一体何なのか、答え合わせまでまだ時間がありそうですから、何か考えてみるとおもしろいのではないでしょうか。
北欧神話との関係性
今回は『ダリフラ』と北欧神話との関係について考えました。
ただやはり今回の考察で取り上げたこと以外にも、北欧神話のモチーフは登場している(これからする)と考えられます。
お気づきの方も多いようですが、例えば、13thプランテーションの幹の部分は世界樹ユグドラシルに見立てられそうです。
また、オーディン=フランクス博士という図式からはまだいろいろなことが考えられそうです。
考察の余地がありそうですから、このことは次回以降考察するかもしれません。
本編は前回の15話で一区切りのようで、これから『ダリフラ』の謎がどんどん明らかになっていくと考えられます。
謎が解明されるのももちろん楽しみなのですが、与えられた情報を元手にあれこれと考えていくのも楽しいです。
もしも拙文を読んで、少しでもダリフラ本編や、ダリフラについて考えることがより楽しみになったならばうれしいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回お会いしましょう。
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