※こちらはアニメ第3期放映時にリアルタイムで作成した記事です。その後の展開や明らかになった設定と食い違う点や推測を多分に含みます。記事を鵜呑みにせず、最新の情報をご確認ください。非公開にすることも考えましたが、いまだ活かせる情報もあるように思われたのでアーカイブとして残します。ご承知おきくださいませ。
Ⅰ. 「テウメソスの生贄」
ギリシャ神話において、「テウメソスの生贄」は「狐」のために捧げられました。
テウメソスの街で人々を喰らう「狐」の気を静めるため、毎月一人、子どもが生贄として捧げられていたのです。
第2話のタイトルはその「テウメソスの生贄」。では「生贄」とは、あるいはそれが捧げられた「狐」とは、『PSYCHO-PASS 3』の場合誰を(何を)指すのでしょう?
あるいは、「テウメソスの生贄」が「狐」の気を静めるのに役に立ったように、『PSYCHO-PASS』で捧げられた「生贄」も、何かの役に立ったでしょうか?
与根原、些々河、土谷、そして常守……今回は『PSYCHO-PASS 3』で捧げられた「生贄」、そしてそれが与えた見返りについて整理・考察していきたいと思います。
- Ⅰ. 「テウメソスの生贄」
- Ⅱ. 生贄①羊たち、与根原、リック・フェロウズ
- Ⅲ. 生贄②7thインスペクター些々河
- Ⅳ. 生贄③常守朱
- Ⅴ. 生贄④土谷荒城
- Ⅵ. 「テウメソスの生贄」は報われるのか?
Ⅱ. 生贄①羊たち、与根原、リック・フェロウズ
ⅰ. 羊たちの生贄
些々河「人は罪悪感から逃れるため、生贄の顔を見ずに済むマクロ経済を発明した。だが俺は違う。」
(『PSYCHO-PASS 』第2話「テウメソスの生贄」より)
「マクロ経済」とは、巨視的な視点で経済を考える経済学の一種です。
つまりそこでは、国家単位で、あるいは地域や企業を単位にして経済を考えるため、一人一人の個人が得をしたとか、損をしたなどという視点は切り捨てられます。
ハイパー・トランスポート社の与根原や些々河が一連の事件で行ったことは、まさにそのような一人一人の個々人を生贄に捧げる行いでした。
サブプライムローンを再現し、移民の人々や社会的弱者という、彼らの言う「羊」たちに大量の負債を負わせる。しかし彼らはそんな個々人の損は考えず、国家レベルで金を動かし、自分たちだけがずる賢く、「狐」のように徳をする。
それが彼らの行った羊たちの「生贄」だと言えるでしょう。
ⅱ. 与根原の生贄
ところがその主犯格の一人である与根原も、結局は些々河に見捨てられ、犠牲となります。
色相が悪化する与根原を、口封じもかねてスラム街で処分してもらい、自分だけは「出島」に高飛びする、それが些々河の描いたプランだったのでしょう。
しかしそのプランも、公安局、そして外務省行動課によって阻止されます。
あまり言い方はよくないかもしれませんが、それもある意味ではリック・フェロウズという勇気ある人の「生贄」、犠牲があって初めて成し遂げられたと言ってよいでしょう。
しかしながら結局、その黒幕だった与根原・些々河も、より大きな黒幕の「生贄」にすぎなかったと考えられます。
Ⅲ. 生贄②7thインスペクター些々河
ⅰ. <ビフロスト>の生贄
代銀「インスペクター1名が、行動課の手に落ちたか。これを読んだ静火(しずか)くんは大したもんだ」
裁園寺「これがラウンドロビンの意志であり、私たちビフロストの安泰に不可欠だったと」
法斑「サブプライム・ダイアグラムの崩壊も、行動課のトラップも自明。それだけです」
代銀「誰かを生贄にしてトラップをあぶりだし、ダイアグラムを組み直す必要があった」
裁園寺「すべてはビフロストのため。インスペクターの犠牲など安いもの。お見事」
(『PSYCHO-PASS 』第2話「テウメソスの生贄」より)
「生贄」になった「インスペクター」とは言うまでもなく、些々河のことです。
というのは、1話で梓澤(あずさわ)と会話する些々河が「7th インスペクターの些々川さん」と呼ばれていたことからわかります。
しかし問題はやはり、ビフロストがここで些々河を犠牲とすることでいったいどのような得をするのか、ということにあります。
彼らの会話は断片的すぎて、話の全貌は見えませんが、上記の会話からいくつか推測できることがあります。
- 「誰かを生贄にしてトラップをあぶりだし、ダイアグラムを組み直す必要があった」と述べていることから、「インスペクター」たちはビフロスト側の駒であり、ビフロストのメンバーはダイアグラム、つまり「運行表」を組み直せる立場にあると推測できる
- 「サブプライム・ダイアグラム」、あるいは「ダイアグラムを組み直す」という言い回しからは、他にもいくつかの「ダイアグラム」、つまり計画があることが推測される
- 「これがラウンドロビンの意志であり、私たちビフロストの安泰に不可欠だったと」という言い回しからは、「インスペクター」たちがシビュラ側の手に落ちてゆくと、ビフロストが危うくなると推測できる
以上のことと、
- 「シビュラの干渉を防ぎ、ビフロストの利益を守るのが私たちの使命」、「ラウンドロビンに執行されるわよ」という先週のセリフ
- 2話で些々河が示唆していた「出島」の存在
を併せて考え、私はある種のたたき台として、次のような仮説を立ててみました。
ⅱ. 仮説1 : <ビフロスト>=「出島」
その仮説とは、<ビフロスト>こそが日本にありながらシビュラの手の及ばない、治外法権的な特区、つまり「出島」であるという仮説です。
初めは、「出島」というのは、単なる比喩的な発言であって、とくに深い意味合いはないのかなと思っていたのですが、「3」のテーマの一つは「開国」ですし、<ビフロスト>=「出島」と考えると、案外いろいろなことが説明できそうなのです。
例えば、<ビフロスト>=「出島」と考える理由には、以下のようなものがあります。
- 「出島」に<ビフロスト>と名付けるのは意味が通るから
- 「出島」が存在していれば、「開国」がよりスムーズに進められるから
- 「出島」=<ビフロスト>とすれば、その「コングレストマン」たちが言っている、「ビフロストの利益を守る」や「ラウンドロビンに執行される」といった発言の意味もわかってくるから
以下で少し具体的に説明します。
①「出島」=<ビフロスト>というネーミング
「ビフロスト」とはそもそも北欧神話で神の国と人間の国を橋渡しする「虹の橋」のことです。
したがって、「出島」が日本と海外とを橋渡しする役割を果たしていると考えれば、その橋渡し的な存在であるという意味合いで、「出島」=<ビフロスト>と名付けることは意味が通ります。
単なるネーミングの話なので、さして重要ではないかもしれませんが、何の理由もなく<ビフロスト>と名付けるようなことはしないと思うので、「出島」=<ビフロスト>とすれば、名前に関しては一応納得はできるように思えます。
②「出島」が存在していれば、「開国」がよりスムーズに進められる
『PSYCHO-PASS』の世界で日本が「開国」することを想像してみると、かなり問題があるだろうことが推測できます。
例えば、文化も法律も違う移民が一気に流れ込んできたら、シビュラシステムは今までとは少し違った判断基準で人々を裁かねばならなくなるわけですが、そのような多様な判断にどのように対応したらよいのでしょうか?
その解決法として、一番手っ取り早いのは、海外の免罪体質者をシビュラに取り込むことです。そうすればより多様な判断基準でもってサイコパス判定ができるからです。
ではどうすれば海外の免罪体質者をスムーズに取り込めるでしょう?
一気に開国、という手もなくはないですが、それでは免罪体質者を取り込む前に混乱が起き、免罪体質者を取り込むのにも手間取ってしまいます。
そこで「出島」です。
つまり、日本における移民の受け入れの実験、あるいは移民たちに対するシビュラシステムの試験的な導入という「建前」で、小規模な「出島」という特区をつくり、表向きはシビュラシステムの試験をしながら、裏で海外の免罪体質者を見つけて取り込めばよいのです。
要するにそれは、シャンバラフロートの管理特区での実験を、日本でも小規模で行うということです。
そのようにすれば、海外の免罪体質者を取り込みつつ、実地での実験も同時にでき、一石二鳥だと言えます。
ただし以上の説明は、厳密には「出島」の必要性を説明しただけに過ぎません。
なぜ「出島」が<ビフロスト>と化したのか、それを次で説明します。
③コングレストマンたちのセリフの意味
思うに「出島」は最終的に、シビュラシステムの手から逃れ、本当に日本とは少し異った「特区」になってしまったのではないでしょうか。
つまり、「出島」が海外の免罪体質者を集め、それを本土にも送り、さあ開国だとなったときに、「出島」を担当していたシビュラシステムの一部が、本土のシビュラシステムに反旗を翻し、独立してしまったのではないでしょうか。
そしてその本土に反旗を翻したシビュラシステムの一部が、「ラウンドロビン」と呼ばれるものなのではないでしょうか。
そう考えると、「ラウンドロビンに執行される」、「シビュラの干渉を防ぎ、ビフロストの利益を守るのが私たちの使命」というセリフの意味も通ってくるように思えます。
つまり、「ラウンドロビン」はシビュラシステムの一部だったからこそ、「執行」ができるのだし、「シビュラの干渉」を防ぐのは、独立している「出島」=<ビフロスト>で暮らしている人々の「利益を守る」ためだと説明できるのです。
以上のことは、やはり推測にすぎませんが、「開国」という「3」のテーマにも沿っていますし、そう考えるとわざわざ<ビフロスト>という組織を登場させたのも、うなずける気がします。
そして私は、その「開国」に伴って払われた最大の「生贄」が常守朱だと考えています。
Ⅳ. 生贄③常守朱
ⅰ. 「事件」の手がかり?
1話で言及されていた「事件」の手がかりらしきものが、2話の中盤で、灼のパソコンのモニターに映っていました。
読める範囲で文字に起こすと、以下のようになります。
読み取った情報を整理すると、ここには以下の2つの出来事が書かれているように思えます。
- (シビュラシステム導入55周年記念?)式典で禾生壌宗局長が常守朱に(?)銃撃された
- 船(輸送ドローン?)が銃撃され、50人以上が死亡し、難民によるテロだと断定された
この2つの出来事自体、まだ推測にすぎませんし、この2つは同時に起こった1つの事件かもしれません。
やはりまだ詳細はわかりませんが、推測しながら見る方が楽しいと思ったので、これに関しても以下のような仮説を立ててみました。
ⅱ. 仮説2 : 常守朱はシビュラシステムをかばって犠牲となった
いくつかの段階があるので、それに沿って説明します。
①慎導灼は免罪体質者
メンタルトレースをしても灼が潜在犯にならないのは、やはり灼が免罪体質者だからだと考えました。
そしてそう考えると、1話で隠されていた灼の父・篤志のセリフ「■■■サイコパス■■■■ すべては■■■■ ■■■■■■ お前を守る■■■■■■」も、「お前のサイコパスは濁らない。すべてはシビュラシステムからお前を守るためなんだ」だと綺麗に解釈できます。
そして(ここは少し無理矢理ですが、)遺伝的に慎導篤志も免罪体質者であると考えます。
②篤志はシビュラシステムの内実を明らかにしようとする
そこで篤志は、息子をシビュラシステムに組み込まないようにするため、免罪体質者である自らがシビュラの一員となり、シビュラシステムの秘密を公に明かそうとします。
そしてそれを起こそうとしたのが「事件」です。
篤志はおそらく、記念式典という大々的な場で、局長の中に脳として入り、局長の姿でシビュラの秘密を明かすことで、それ以上シビュラを運用することを止めようとしたのでしょう。
③常守朱が篤志を止める
もちろんシビュラシステムの内実が明らかになっては大混乱が起きてしまいます。
それは「正義」や「秩序」を重んじる常守も望むところではないでしょう。
したがって、それにギリギリで勘づいた常守が、実弾で局長の姿をした篤志を殺し、シビュラシステムの秘密が明かされないようにしたのではないでしょうか。
以上のことはもちろん仮説にすぎませんが、そう考えると、常守が局長を殺さなければならなかった理由、そして篤志がopでシビュラの脳の上に立っている描写がある理由などに筋が通ります。
ただこれだと篤志がシビュラの秘密を明かす動機が個人的すぎて、少し弱いように思えます。
また、篤志がシビュラの一員になりながら、独断で開国を宣言するというのも困難なように思えます。というのは、シビュラの意志というのは総意で決まるものですし、篤志がもし開国を宣言しようとしているのならそれは脳を伝ってシビュラに筒抜けなはずだからです。
篤志がシビュラの他の脳たちに抗って単独で開国を宣言する、というのはかなり特殊な場合を考えないと難しそうです。
あまり納得はしていないので、これについては引き続き考えてみたいです。
Ⅴ. 生贄④土谷荒城
ⅰ. 似通う手口
炯「不具合の連鎖……輸送機の事故と似ているな」
(『PSYCHO-PASS 』第2話「テウメソスの生贄」より)
第2話の新たな事件で犠牲となったのは土谷荒城(つちやこうじょう)、元アイドルで都知事選出馬中の小宮カリナのメンタルケアスタッフだった男です。
とりあえず今回の事件の手がかりとしては
- 「彼女を守らねば」というセリフ
- 部屋のドアの前にいた人物は「2人。足跡からしてどちらも身長180cm以上、体重100kg以上」
- 土谷は死ぬ直前、誰かに連絡をとろうとしていた
- テレビはボトルに何かを投げつけようとした
- 土谷は部屋から出ようとしていた
などが挙げられます。
ここから推測するに、
- テレビで小宮カリナの身の安全が危ぶまれるような放送を流し、不安をあおる
- それを見て錯乱した土谷はテレビにボトルを投げつける
- 小宮カリナに連絡しようとするがカリナは出ない
- 唯一空いていた窓から外へ出ようとするが、転落して死亡
- テレビや窓の不具合をセッティングしたのは、「身長180cm以上、体重100kg以上」つまり、作中で言われていた「製薬会社の下でドーピング」していた「アスリート」
といったところが事件の真相だと考えられます。
単純に推測すれば、小宮カリナの対立候補である薬師寺が、小宮カリナをおとしめるために「アスリート」を派遣し、事件を仕組んだということになりそうです。
しかし、足跡を残してしまうのは軽率すぎますし、小宮カリナが犯罪者だとすると手強いという趣旨の灼の発言もありましたから、事件はそう単純ではないかもしれません。
そして、偶然が重なって起こるため、自分たちの色相は濁らないという輸送ドローンと同様の手口からして、バックには「インスペクター」の存在があると考えられます。
ⅱ. 「インスペクター」たちは何をしようとしているのか?
結局残る疑問は、「インスペクター」たちは何をしようとしているのかということにあるように思えます。
彼らのたくらみを考えるため、仮に彼らの「ダイアグラム」が成功したとしたら何が起こるかを考えてみましょう。
例えば、先週のサブプライムローンの事件ではどうなるでしょうか?
些々河のたくらみが彼に成功したとすると、サブプライムローンによって起こるであろうバブル崩壊のしわ寄せは、結局、家を買ってしまった社会的弱者や移民、あるいは銀行にいくはずです。
そこから想定されるのは、移民が日本に住めなくて結局海外へ行くこと、あるいは国内で損をした人たちの色相が悪化し、捕まることなどですね。
そうだとすると、「インスペクター」たちの狙いは、移民を排除すること、あるいは社会的弱者を排除すること……などとなるのでしょうか……?
うーん……正直まだわかりません。
小宮カリナや薬師寺の裏にインスペクターがいるなら、彼らの選挙戦に何か手掛かりがあるのかもしれません。
これに関しては手掛かりを待ちたいと思います。
Ⅵ. 「テウメソスの生贄」は報われるのか?
今回は「生贄」に注目し、「生贄」の対象、それからそれが意味するところについて考察しました。
第2話にはそこまで新しい情報はなかったので、少し「3」の内容について仮説を立てて推測をしてみました。
もちろん仮説なので完全に的外れということもあるでしょうが、このような考察もオリジナルアニメの醍醐味だと思うので、私の仮説をたたき台にして、これを読んでくださった方々が何か考えたり、あるいは『PSYCHO-PASS』をより楽しんでいただけたなら幸いです。
今回は早めにアップしましたが、まだ考えていることがあるので、また追記するかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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