三度目の『金枝篇』へ
今回も前回、前々回に引き続いて『ダリフラ』と『金枝篇』の関連について考察していきたいと思います。
予告していたとおり、今回は「ディアーナ」とゼロツーとの類似、特に「アルテミス」とゼロツーの類似について考えていきます。
ディアーナ∽ゼロツー
ディアーナとは何か
ディアーナとは、『金枝篇』でフレイザーが解明しようとした「祭司殺し」が行われていたネミという場所で崇拝されたいた神です。
しつこいようですが大切なことなので、「祭司殺し」の慣習の内容を引用しておきます。
イタリアのネミの村には、ネミの湖と呼ばれる聖なる湖と、切り立った崖の真下にあるアリキアの木立とよばれる聖なる木立があり、木立には聖なる樹(ヤドリギ)が生えていた。この樹の枝(金枝)は誰も折ってはならないとされていたが、例外的に逃亡奴隷だけは折る事が許されていた。
ディアナ・ネモレンシス(森のディアナ)神をたたえたこれらの聖所には、「森の王」と呼ばれる祭司がいた。逃亡奴隷だけがこの職につく事ができるが、「森の王」になるには二つの条件を満たさねばならなかった。第一の条件は金枝を持ってくる事であり、第二の条件は現在の「森の王」を殺す事である。*1
以上にも見られるように、ディアーナは「祭司殺し」がおこなわれるネミの場では、そこでたたえられる「神」という重要な役割を果たしています。
したがって当然、『金枝篇』を登場させ、「湖」や「祭司殺し」との関連が見られる『ダリフラ』においても、なにかディアーナとの関連が見出せるのではないかと思われるのです。
そこで考えられるのがディアーナとゼロツーとの類似です。
ディアーナ→ゼロツーと見立てられる理由
ディアーナ≒アルテミス
ディアーナ→ゼロツーと見立てられる理由の一端は、ディアーナと、そしてディアーナと同一視される女神アルテミスの象徴に、蜂、ライオン、翼、竜といったゼロツーに共通するモチーフがあるという点にあります。
まず『金枝篇』によると、ネミ湖近辺に存在したディアーナ神殿に「腰から羽が生え、両肩にライオンが前足を掛けた、いわゆるアジアのアルテミスと呼ばれる特徴を備えた女神」が描かれていたと書かれています。
アルテミスとは、前述したようにディアーナと同一視されているギリシャ神話の神であり、特に古代小アジアの都市エペソス(エフェソス)では根強い信仰の対象となっていました。
したがって、羽やライオンといった特徴を備えたアジアのアルテミスとは、特にエペソスのアルテミスを指します。
エペソスのアルテミス
エペソスのアルテミスといえば、多数の乳房をもった像が有名です。
なぜ多数の乳房とともに描かれるかといえば、それはエペソスのアルテミスが「豊穣の女神」とされているからです。
豊穣の女神というのもポイントになるのですが、ここで注目したいのはエペソスのアルテミス像にライオンや翼をもった竜、そして蜂といった彫像がともにほられているという点です。
これらのモチーフはストレリチアのスタンビートモードのライオン、比翼の鳥、ハチミツといった『ダリフラ』世界でのゼロツーのモチーフと重なり合います。
これがディアーナ、ひいてはアルテミスとゼロツーが類似するのではないかと考えた発端です。
以上のことは理由としては弱いですが、以下で見ていくような類似自体も、アルテミスとゼロツーを類似するものと見ることの裏付けにもなっていると考えられます。
それではゼロツー→アルテミスと見立てると、どのようなことが言えるのでしょうか?
神を射抜く
まず、ゼロツーをアルテミスと見立てると、ゼロツーこそが神を射抜く、つまりパパたちに一矢報いる役割をになうと考えられます。
アルテミスは弓を携えて描かれることもあり、一般に弓の名手とされています。
そこで連想されるのが神を射る矢「ミストルティン」です。
以前考察したように、コドモたちは神、すなわちパパに歯向かう存在となりうるのではないかと考えられるのですが*2、アルテミスが弓の名手であることを考えると、その嚆矢となる、あるいは核心を射るのはゼロツーなのではないかと考えられるのです。
このことは本編でゼロツーが、パパたちとは違う目的をもっているであろう博士にゼロツーが加担している(させられている)ことなどに裏付けされると考えられます。
ただし、「ミストルティン」という語はあくまでも13部隊の育成施設であるので、ゼロツーだけでなく、神を射る際には13部隊のパラサイトが関わってくると考えられます。
以上のように、アルテミス→ゼロツーと見立てるとゼロツーは「神を射抜く」とも考えられるのですが、弓の名手であるアルテミスはいつでも「敵」を射抜くわけではありません。
「遠矢射る」→疫病と死をもたらす
アルテミスは一般に弓の名手とされていますが、その矢はときとして人間にも向けられます。
すなわち、アルテミスは人間に疫病と死をもたらす神でもあると言われているのです。
この人間に対する矢の発射は「遠矢射る」という語で喩えられ、アポローン神とともに恐れられていました。
このアルテミスの人間を害する側面は、『ダリフラ』でも反映される可能性があります。
すなわち、ゼロツーは使い方を間違えれば、何らかの形で「細菌」をまん延させる存在にもなりうるのではないでしょうか。
これは仮説の上に仮説を重ねることになってしまうのですが、例えば、叫竜由来の「細菌」を多く保持したゼロツーがオトナたちに積極的に「細菌」を感染させたり、最悪の場合叫竜と結託してオトナたちを襲うという展開もありえなくはないと考えられます。
いずれにせよ、ディアーナをゼロツーに見立てるのならば、弓の名手であるその女神がいつでも人間の「敵」を射るわけではないということは注目に値します。
オリオンを射る
また弓の名手であるアルテミスには、愛する相手であったオーリーオーンを誤って射ってしまったという神話もあります。
これはアルテミスとオーリーオーンの仲をよく思わないアポローンの策略の結果なのですが、この誤射によるオーリーオーンの死を追悼して星に上げられたのがオリオン座なのです。
ここにも『ダリフラ』との関連は見出せます。
すなわち、オリオン座といえば第7話でヒロとイチゴが見た星座であって、2人の会話の中では「イチゴの星」が話題になり、イチゴがオリオン座の星の1つになぞらえられていたのでした。
ここにアルテミスの神話との関連を見出すならば、オリオン座の星に見立てられたイチゴはアルテミスに誤射される、つまりゼロツーに「誤射」されるということが考えられます。
その「誤射」が具体的にどのような形でなされるかはわかりませんが、アルテミスがオーリーオーンを死に至らしめたことを考えれば、致命的な傷を与えても不思議ではありません。
ヒロの運命
非業の死を遂げたヒッポリュトス(=ウィルビウス)
また、アルテミスの身辺で不運な死を遂げたのはオーリーオーンだけではありません。
「祭司殺し」が行われていたネミでまつられているもう1柱の神ウィルビウスの元の姿であるヒッポリュトスもまた、アルテミスの身の回りで非業の死を遂げた神です。
ローマ神話では、非業の死を遂げたのち復活したヒッポリュトスが、ディアーナ(=アルテミス)により、ネミの洞窟に隠され、森のディアーナ信仰の神ウィルビウスとなったとされています。
そしてそのウィルビウスが原型となったのがネミの祭司たちであり、したがって祭司たちは後継者に殺されるという、ウィルビウス=ヒッポリュトスの最期のような悲劇的な死を迎える運命にあるのです。
ヒロも非業の死を遂げる……?
非業の死を遂げたヒッポリュトス=ウィルビウスが祭司の原型であり、また、前回みたように「祭司殺し」が「パートナー殺し」に類似するならば、気になるのはヒロの運命です。
ヒロもゼロツーのパートナーであるからには「祭司」の一人であると見立てられるわけですが、これに加えてゼロツーがアルテミスに見立てられることを考えれば、ヒロも悲劇的な運命をたどる可能性があります。
すなわち、アルテミスのパートナーであったヒッポリュトスが非業の死を遂げたように、祭司たちが後任に殺されるという悲劇的な最期を迎えるように、ヒロの最期もあるいは悲劇的なものになるのかもしれません。
これもこれからの展開次第ではあるのですが、13話で明らかになった「絵本」の内容などを考えてみても、ゼロツーとヒロの物語の結末も決して明るいものではないのかもしれません。
「ディアーナ」としてのゼロツー
今回は「ディアーナ」とゼロツーとの類似、特に「アルテミス」とゼロツーの類似について考察しました。
お読みいただいて理解していただけると思われるのですが、正直な話、これはあまりきれいな類似とはいえません。
あるいは、まだ、綺麗な類似が見られないだけなのかもしれません。
そのため今回はかなり粗い、危うい「考察」となってしまいました。
ただしこのような類似の不完全さは、『金枝篇』と『ダリフラ』の類似自体にも見られるように思います。
前回、前々回と『金枝篇』と『ダリフラ』について考察してきましたが、現時点ではまだ、『ダリフラ』に『金枝篇』を登場させた決定的な理由・意味は明らかになっていないように思えます。
もちろん、『金枝篇』に『ダリフラ』をなぞらえさせる必要性は全くありません。
ただし『ダリフラ』が意図的に『金枝篇』を持ち出したからには、そのことによって物語に深みが出たり、物語のキーアイテムになったりと、何か物語に良い効果がもたらされることは期待してよいのではないかとも思われます。
なんのために『金枝篇』は持ち出されたのか、それを考えることは決して無駄にはならないと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた次回お会いしましょう。
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