なぜ高坂麗奈の背景には「藤棚」が使われるのか?
なぜ高坂麗奈の背景には「藤棚」が使われるのでしょう?
「藤棚」とは、高坂麗奈が「新世界より」を吹いたあの場所、「"like" じゃなくて"love" のほうね」と言ったあの場所のことです。
考えてみれば、「新世界より」を吹くのは別に学校の屋上でもよかったし、「"like" じゃなくて"love" のほうね」と言うのは校舎裏や帰り道でもよかったように思えます。
しかし、選ばれたのは藤棚だったのです、藤棚でなければならなかったのです。
では、なぜ藤棚なのでしょう? なぜ藤棚でなければならなかったのでしょう?
藤棚の場面をよく見返してみると、実は藤棚こそが、高坂麗奈の感情を一番鮮やかにする舞台だということがわかってきます。
- なぜ高坂麗奈の背景には「藤棚」が使われるのか?
- 藤棚に秘められたメッセージとは?
- 場面①「新世界より」を吹くシーン
- 場面②「 "like" じゃなくて "love" のほうね」と言うシーン
- 高坂麗奈というつよい人間
藤棚に秘められたメッセージとは?
「藤棚」とは、一般的に、藤の花を見やすくするために、藤のツタを絡ませ花を上から垂らした棚です。
しかし『響け!ユーフォニアム』においては、この藤棚にとあるメッセージが秘められています。
そのメッセージとは、「決して離れない」というメッセージです。このメッセージは、「決して離れない」という藤の花言葉に由来していると考えられます。
ただ、これだけだとよくわからないと思うので、以下でさらに具体的な場面と共に考察してみます。
場面①「新世界より」を吹くシーン
藤棚で「新世界より」を吹く
まず最初の場面は、1期の第3話で麗奈が「新世界より」を吹く場面です。
今年は全国を目指すという目標が決まったにも関わらず、合奏でひどい出来を見せ、「何ですか、コレ」をくらった吹部は、部員からの不満がつのり、練習がお休みに。
そんな状況で、静かに感情爆弾を膨らませた麗奈は、ひとり孤独に「新世界より」を北宇治に響き渡らせます。この「新世界より」を吹く場面の背景に、藤棚が使われています。
では、なぜこの場面では藤棚が使われたのでしょう?
「新世界より」という曲を選んだ理由
この場面で藤棚が使われている理由は、「新世界より」という曲をチョイスした理由を考えるとおのずと明らかになってきます。
数ある曲の中から、麗奈が「新世界より」を選んだ理由は、「新世界より」という曲の制作背景にあると考えられます。
「新世界より」が作られた背景については、本編で久美子が語ってくれています。
「新世界より」。
ドヴォルザークがアメリカにいるときに、故郷のボヘミアを想って作った曲なんだって。
まだ何もない、新しい世界で。
(『響け!ユーフォニアム』第3話より引用*1)
要するに、「新世界より」とは、新しい世界から故郷のことに想いをはせる曲であるわけです。麗奈も、この曲を作ったドヴォルザークと同じ気持ちになったからこの曲を吹いたのではないでしょうか?
つまりこの場面では、麗奈も「新しい世界」から「故郷」のことに想いをはせていると考えられるのです。
麗奈にとっての「新しい世界」とは、もちろん北宇治高校のことであり、そして麗奈の「故郷」とは、中学のときに全国大会に行けなかったという過去のことです。
中学のとき全国に行けなくて死ぬほど悔しかった、だから今度こそは、北宇治で滝先生と絶対に全国に行くんだ、そんなつよい意志を表明するために、麗奈は「新世界より」を吹いたのではないでしょうか。
このことから、ここで藤棚を背景にした理由もわかります。
藤棚→「決して離れない」という決意の表れ
結論から先に言うと、「新世界より」を吹く場面で藤棚は、滝先生のいる北宇治高校から「決して離れない」という麗奈の意思をよりつよく示すために用いられています。
麗奈にしてみれば、全国を目指そう、というときによりにもよって滝先生に不満がつのり、しかもそれで練習が中止になどという現状は非常に腹立たしい状況なわけです。
麗奈の気持ちを代弁すれば、「なんでこんなことで練習が中止にならなきゃいけないの!全国目指す気がないやつは辞めろ!私はこの北宇治という「新世界」で闘う。全国行くまで滝先生のもとを『決して離れない』から」という感じでしょう。
「決して離れない」というメッセージをもった藤棚が背景になることによって、そのような麗奈の気持ちが、言葉にせずとも伝わってくるわけです。
以上のことから、ここで藤棚は、北宇治を「決して離れない」という麗奈の決意をよりつよく示すために使われていると考えられます。
場面②「 "like" じゃなくて "love" のほうね」と言うシーン
滝先生への想いを久美子に伝える舞台
藤棚が登場するもう一つの場面は、「 "like" じゃなくて "love" のほうね」と言うシーンです。
オーディションへの不満から、麗奈と滝先生の関係を問い詰める優子に、麗奈が「香織先輩より私の方が上手い」と言い切った後のシーンですね。
思わず教室を飛び出した麗奈を久美子が追いかけ、その後、麗奈が滝先生への想いや「特別」にかける想いなどをつまびらかに語る舞台が藤棚の下(上画像参照)になっています。
では、なぜこの場面では藤棚が舞台として選ばれたのでしょう?
藤棚→麗奈の滝先生への想いの強調
この場面では、麗奈が初めて久美子に対して、滝先生への想いを正直に話します。
例えば「滝先生がこの学校に来るって話、私お母さんから無理矢理聞き出してね、で、推薦蹴って」*2とか、「私さ、滝先生のこと好きなの」*3という風にです。
このとき、「決して離れない」というメッセージをもった藤棚は、麗奈の、滝先生のもとを「決して離れない」という想いを強調していると解釈できます。
また、ここではもう一つ別の解釈をすることもできます。
藤棚→ソロパートを「決して離れない」
またこの場面では、直前でソロパートについてもめていたこともあり、途中に「ソロパートを譲る気は?」「ない。ねじ伏せる」というやり取りがあります。
この文脈に則れば、藤棚はソロパートを「決して離れない」、つまりソロパートを譲らないということを強調しているとも解釈できます。
いずれにせよ、この場面では、麗奈の「決して離れない」というつよい気持ちを強調していると言えるでしょう。
高坂麗奈というつよい人間
今回は、「『藤棚』から読む高坂麗奈」と題し、「藤棚」の果たす役割について考察してきました。
まとめると
①「新世界より」を吹く場面では、滝先生のいる北宇治高校から「決して離れない」という麗奈の意思をよりつよく示していた
②「 "like" じゃなくて "love" のほうね」と言う場面では、麗奈の滝先生への想いやソロパートを譲らないという想いを強調していた
と言えます。
いずれにしても、「藤棚」は「決して離れない」という麗奈の想いを強調する形で登場していると言えます。
言い換えれば、「藤棚」という舞台こそが、高坂麗奈の溢れんばかりの感情を、より鮮やかに強調していると言えるでしょう。
以上のことを踏まえれば、「藤棚」こそが、高坂麗奈という巨大な感情をもったつよい人間にふさわしい舞台なのだと考えられます。
よくよく考えれば、「決して離れない」というメッセージの時点で、ものすごく麗奈らしいとも言えますね。
言葉だけでは表現しきれない、音でも表現しきれない、そんな溢れんばかりの感情が、「藤棚」という表現ににじみ出ているのではないでしょうか。
「藤棚」という表現に注目しながら、改めて見てみると高坂麗奈がよりエモーショナルに映るかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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