『響け!ユーフォニアム』考察
今回はアニメ『響け!ユーフォニアム』について考察たいと思います。
なぜ今さらユーフォ?と思うかもしれませんが、アニメとしてたいへん優れていますし、考察する価値が十二分にあると個人的には思います。
そして何より、私はものすごくユーフォが好きです。正直、今まで見たアニメで5本の指には入ると思っています。好きなアニメだからやる気もでる、好きこそものの上手なれ。
では、そんな大好きなユーフォをどう考察しようと考えたときに、最初に思いついたのは、「モチーフから見るユーフォ考察」というものでした。これは話数ごとではなく、2期まで通して、いわば横断的にユーフォを見る試みなのですが、モチーフごとに見ていくのには、いかんせんかなりの時間と労力が必要です……。
現在絶賛作業中なのですが、今回の記事には間に合いませんでした。そこで「モチーフごとのユーフォ考察」は後に回すことにして、今回は1期第2話の「豆笛の場面」について考察したいと思います。
この「豆笛の場面」、ただストーリーを追うだけでも面白いのですが、読み込んでいくと、とても巧いつくりになっていることがわかります。早速以下で見きましょう。
ちなみにもちろん今回もネタバレを含みます。ユーフォはみんなに見てほしいので見てから見てほしい(見て)。
豆笛の場面
問題にしたいのは1期第2話の「豆笛の場面」です。
全国大会を目指すかどうか多数決をとった後の帰り道、久美子は麗奈のことを気にして手を挙げられなかった自分を意識し、例のベンチで苦悩します。
そこに幼馴染の葵が登場し、建前でも全国を目指すと言うことについて、みんなぶつかって傷つかないよう、保身に走っているのだと説きます。
では、なぜ葵はあえて全国を目指さない方に手を挙げたのか、そう問う久美子に彼女は答えます、「アリバイ作りかな」と。
「アリバイ作り」とは、もちろん葵が退部するためのアリバイ作りということです。
会話だけ追ってみてもわかりやすく、見事に葵が吹部を辞める伏線になっていることがわかります。加えて言い回しも、心遣いも、とても高校生らしいです。
ただ、今回問題にしたいのはストーリーではありません。
問題にしたいのは、カラスノエンドウを使った演出の方です。
カラスノエンドウの演出
「豆笛の場面」では、久美子が話しながらおもむろにカラスノエンドウ*1をむしって、それを笛にして吹き始めます。いわゆるピーピー笛というやつです。
「鳴るね~」と言う葵に、「一応吹奏楽部なので。って、吹奏楽関係ないけどね」と茶化す久美子。一見、カラスノエンドウは何でもない戯れの道具として使われているように思えます。
しかしよくよく見てみると、カラスノエンドウは実際、ある巧い効果を発していることがわかります。カラスノエンドウがもっている効果は、主に2つに分けられます。
効果①久美子の気持ちの代弁(豆をかき出す=気持ちを吐き出す)


カラスノエンドウの1つ目の効果は、久美子の気持ちの代弁です。
久美子は、豆笛を作るのに豆をかき出します(上画像)。この直前、久美子は「本気で全国行けると思ってたの?」と言ってしまった過去を、葵に打ち明けます。その苦悩を聞いた葵は、「高坂さんに、私悪くないって言いたいんだ?」と穿ったような言葉を投げかけます。
それを受けて久美子は、「うーん、そうかも……」と言いながら豆をかき出します。ここで豆をかき出すという動作は、いろいろなモヤモヤした気持ちを吐き出したい、という久美子の心情に連動していると考えられます。
モヤモヤした気持ちというのは、例えば、はやく麗奈との関係を清算したいという願望であったり、本当に私悪くないって言いたいのかな?という疑問だったり、そんないろいろが面倒くさいなという思いだったり、です。
そんなすべてを早く吐き出してしまいたい、片づけてしまいたい、という思いと連動するように、邪魔な豆をすべてかき出します。すなわち、ここで豆をかき出す動作は、久美子の気持ちを代弁していると読み取れます。
ちなみに、かき出すときには「ねちょねちょ」とした不快なSEが入っており、久美子のモヤモヤが視聴者にも伝わってくるように感じられます。
以上のように、カラスノエンドウはまず、久美子の複雑な心情を表現する演出道具となっていると言えるでしょう。
効果②楽器のメタファー→退部のメタファー


カラスノエンドウの2つ目の効果は、楽器のメタファー→退部のメタファーです。
カラスノエンドウでつくった豆笛は、楽器のメタファーとしても扱われています。それはカラスノエンドウが豆笛という一種の楽器となっていることや、「一応吹奏楽部なので。って、吹奏楽関係ないけどね」というセリフでカラスノエンドウが楽器に見立てられていることから推測できます。吹奏楽部は、なんなら関係大アリなのです。
では、カラスノエンドウが楽器のメタファーだとしたら、どんなことが言えるのでしょう?結論から言うと、カラスノエンドウ=楽器というメタファーからは、さらに葵が吹奏楽部を辞めることのメタファーを読み取ることができます。
それは、葵がカラスノエンドウを投げ捨てるカット(上画像)から読み取れます。カラスノエンドウを手放す=楽器を手放す=吹奏楽部を辞めるということです。しかも久美子がカラスノエンドウを投げ捨てるカットはありません。葵だけが、カラスノエンドウを投げ捨てているように見えるのです。
豆笛を吹いた後、それはもちろん使い捨てにされるのだから、結局久美子もカラスノエンドウを捨てることにはなるでしょう。しかし、ここでカラスノエンドウを捨てるカットがあるのは葵だけです。言い方を変えれば、「葵が」カラスノエンドウを投げ捨てるカットが強調されていると言ってもいいでしょう。
さらにこの場面には、葵が吹奏楽部を辞めることが示唆されるという文脈もあります。それは先ほど述べたように、なぜ全国を目指さないほうに手を挙げたのか、という久美子の問に「アリバイ作り」と答えたことから読み取れます。
以上のように、カラスノエンドウには楽器のメタファー、ひいては葵が吹奏楽部を辞めることのメタファーという効果があると考えられます。
カラスノエンドウという道具立てのうまさ
以上のように、カラスノエンドウには①気持ちを吐き出すことの表現、②楽器のメタファー→葵の退部の暗示という効果があります。これは非常に巧いです。
作る側に立って考えてみてください。この場面でストーリー的にクリアしなければならないノルマは、葵が退部する伏線を貼る、という一点だけでしょう。もし、あなたが監督、あるいは原作者なら、どこで、どんな芝居をキャラにさせますか?
例えば、帰り道歩きながら久美子と葵が話をする、例えば橋の上を歩きながら。ちょくちょく橋に寄り掛かったりすれば、時間もかせげる。これで十分でしょう。
ところが、大正義京都アニメーションの演出家(か監督か絵コンテか原作者etc.)は「カラスノエンドウ」という天才的な道具を持ち出したのです。これ一つあれば、尺ももつし、気持ちのメタファーにも、退部のメタファーにも使えます。こんなこと誰が考えつけるのでしょう?(もちろん、そんなこと考えてなかった可能性もありますが)
大げさに言ってしまいましたが、以上のように考えると、カラスノエンドウという道具立てが、いかに巧い(と私が思っている)かが伝わったと思います。
ただ「豆笛の場面」の魅力はこれだけに収まりません。
構図の巧さ


「豆笛の場面」は、作画の構図も巧みです。
この場面は、すべて例のベンチ*2の周りで繰り広げられています。ユーフォではおなじみのベンチですが、おなじみ過ぎて同じ構図で見ると、視聴者の側も飽きてきてしまいます。
しかし、ここではかなりの枚数ベンチが描かれているものの、その構図は様々です。例えば上の画像のように、葵視点の背景であったり、道を使った遠近感を強調した構図が用いられたりします。
ただその中でも、一番巧いなと思う構図は以下のカット(下図)です。
初見でも何となく綺麗だと思っていたのですが、構図に注目するとその綺麗さの理由も何となく納得できます。
補助線を引いてみましょう。
例えば2人の目の中心を結んであげると、上のようにほぼ平行な直線が引けます。
このカットは線の構図が徹底しています。気づくと何でもないかもしれませんが、綺麗な線の絵画になっていることがわかります。
例えば以下のようにも補助線が引けます。
今度は縦に注目して線を引いてみました。久美子のセーラー服の襟と前髪の分け目を結ぶと左の線、葵のセーラー服の襟と前髪の分け目を結ぶと真ん中の線、葵の腕の線とスカートのすその線を結ぶと右の線がそれぞれ引けます。
少し大雑把ですが、だいたい平行な3線が引けます。遠近で言っても、左下の方が手前、右上が奥、となり、さらにこの線に沿っていけば、視線は葵の頭上、木洩れ日がキラキラしているところに誘導されます。
そうすると絶妙にぼやけた木洩れ日とあいまって、この風景に風が吹き、暖かさが感じられます。見事な線の絵画、と言わざるを得ません。
ユーフォの「うまさ」
今日はユーフォの「豆笛の場面」、特にカラスノエンドウの演出について考察しました。いかがでしたでしょうか。
ユーフォにはこれ以外にもおもしろい場面がたくさんあります。早く整理して考察したいのですが、いかんせん時間も労力もかかります……。とりあえず絶賛作業中なので、もしも待っていただける方がいるなら、もう少しお時間をいただきたいです。
ユーフォは来年に映画も公開されるので、それまでには必ずやり遂げたいです。とはいったものの、次回の記事がユーフォとは限りません。他にも読んでいきたい作品がたくさんあります。
とにかく、ユーフォはおもしろいのでこれからも考察していきたいと思っています。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
<カテゴリ『響け!ユーフォニアム』の記事>