「世界樹ユグドラシル」~地下の層~
前回、前々回に引き続き今回は『ダリフラ』と「世界樹ユグドラシル」、ひいては『ダリフラ』と北欧神話の世界観との関係を考察していきます。
今回は特に『ダリフラ』とユグドラシルの最下層「地下の層」*1との関連を考えていきたいと思います。
「地下の層」とはどのような場所か
ユグドラシルが根を下ろす3つの層のうち、最下層に位置するのが「地下の層」です。
この「地下の層」には、死者が住まう国「ヘルヘイム」や氷の国「ニヴルヘイム」、そして灼熱の国「ムスペルヘイム」があると言われています。*2
死者の国、氷の国、灼熱の国という文言からもわかる通り、この「地下の層」というのは一般に「地獄」と言われる概念を思い浮かべるとイメージしやすいかもしれません(あくまでイメージの話ですが)。
ではこの「地下の層」と『ダリフラ』とはどのように関わっているのでしょうか。
「地下の層」=「地下世界」
「地下の層」=『ダリフラ』における地下
これまでの考察で「天上の層」は「ミストルティン」、「地上の層」は「プランテーション内部都市」と巨人=フランクス / 叫竜が住む外の世界に見立てられることを見てきましたが、それでは「地下の層」は『ダリフラ』ではどこに当たるのでしょう。
「地下の層」は、『ダリフラ』においても文字通り「地下世界」にあたると考えられます。
その理由としては、まず単純に第17話で七賢人のうち2人が訪れたような「地下世界」が存在していること、そしてそこが文字通り「地下」であることが挙げられます。
またこれは前回の考察に基づく話なのですが、「地上の層」にあたるプランテーション内部都市が地上にあることを考えると、図式的に「地下の層」はプランテーションの下層にこなければなりません。
以上のような理由から、「地下の層」=『ダリフラ』の「地下世界」と考えることができます。
では『ダリフラ』における「地下世界」を「地下の層」に見立てるとどのようなことが言えるのでしょう?
叫竜は地下から来た?
叫竜はどこから来たのか?
「地下の層」=「地下世界」とすると、叫竜たちは地下から来たと言えるかもしれません。
え?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、叫竜が地下から来たあるいは叫竜は地下で誕生したというようなことは、まだ本編で明確に示されたわけではありません。
叫竜が「霜の巨人」に見立てられるというのは前回の考察で確認しましたが、北欧神話ではその「霜の巨人」の祖先は氷の国「ニヴルヘイム」という「地下の層」にある国に住んでいたと言われています。
したがって、「霜の巨人」が「地下の層」から来たという北欧神話のエピソードを『ダリフラ』がなぞらえるのならば、叫竜(=霜の巨人)も「地下世界」(=地下の層)から来たと考えられるのではないでしょうか。
今更叫竜は地下から来たなどと言ってもちっぽけなことのようですが、もし叫竜が「地下世界」から来たのならば話は大きく変わってきます。
叫竜は人工物か?
これも何度か言及したように思うのですが、叫竜は本当に自然の生物なのでしょうか?
叫竜がもし自然の生物ではなく人類の作った人工物ならば、『ダリフラ』における人類vs叫竜の図式は、実は人類vs人類であったという話に帰着します。
もしそうならば、その争いの要因も人類間の問題となり、『ダリフラ』という作品が訴えかける主題も大きく変わってきます。
ただ、本編が進むに連れて、叫竜はそう単純なものではないということが明らかになってきました。
叫竜は自然に生まれた生物か?
例えば以前も述べたように、叫竜は生物ではなく「乗り物」である可能性もあり、もしそうならば『ダリフラ』世界の争いは人類vs人類ではなく、人類vs人類とは異なる生物(=叫竜)という図式に帰着する可能性があります。
第15話でコアの中から人間らしきものが出てきたのですが、これはいろいろな可能性を示唆します。
例えばもしこれが本当に人間ならば、叫竜側に人間が協力しているのか、あるいは叫竜が人間を連れ去るか何かして叫竜を動かすための燃料のように扱っているなどと考えられます。
しかしこれが人間でないならば、叫竜は「乗り物」であって、中には叫竜を動かす生物が別にいるということも考えられます。
その場合、叫竜は叫竜で独自の文明を築き、人類で言うところのフランクスのような「乗り物」を開発していたことになります。
叫竜がもし「地下世界」から来たのならば、以上のような叫竜が独自文明を築いており、叫竜という「乗り物」もその産物であるということにも説得力が増すように思われます。
つまり、もし叫竜が「地下世界」から来たのならば、叫竜が「地下世界」で独自の文明を築いて叫竜という「乗り物」を作り、また叫竜側だけが享受していたマグマエネルギーを人類に横取りされてしまったことで戦争になったなどと、辻褄の合いそうな仮説を立てることも可能なのです。
そしてこのような場合、『ダリフラ』世界の争いは人類vs人類とは異なる生物の図式になり、そこから訴えられる主張も、人類の枠組みにとどまらない主題となり得るため、人類vs人類で問いかけられる主題とは異なる様相を呈します。
「双方がそろえば、やつらも土へとかえる」
また、七賢人が第15話で言っていた「双方(グランクレバスとフリングホルニ)がそろえば、やつらも土へとかえる」というセリフも、叫竜が「地下世界」から来たという仮説を助けるかもしれません。
ただこれに関しては注意が必要で、「やつらも土へと "帰る" 」と解釈すると叫竜が「地下世界」から発生したものなので、グランクレバスとフリングホルニを利用して叫竜を地中へ帰すという意味になるのですが、「やつらも土へと "還る" 」と解釈すると話が変わってきます。
つまり、その場合叫竜を土へと還元するという意味になり、叫竜が「地下世界」から来たとは限らないことになるのです。
また「やつら」というのも、文脈的には叫竜を指すようですが、100%「やつら」=「叫竜」と決まったわけではありません。
以上のようなことを考えると、まだ確実に叫竜が「地下世界」から来たとは言えないのですが、叫竜が「地下世界」から来たとすると『ダリフラ』という作品としての主題も、そして話の構図も大きく変わってくるというのは確かです。
これからの本編でもこの点に注意してみるとおもしろいでしょう。
叫竜の姫 "001" とは何者か
また「地下の層」=「地下世界」ならば、その「地下世界」に住む叫竜の姫 "001" も北欧神話との類似で考えられないのか?とも思われます。
これに関しては叫竜の姫 "001" の登場回数が少ないこともあり、まだあまり類似と呼べるような特徴は見られないのですが、もしも、もしも叫竜の姫 "001" のルーツも北欧神話にあるのだとしたら、例えば以下のようにも考えることもできます。
叫竜の姫 "001" =「ヘル」?
まず考えられるのは叫竜の姫 "001" =「ヘル」という仮説です。
なぜそう考えるかというと、死者の国を支配する女神「ヘル」は半身が赤、もう半身が青で描かれることがあるように、叫竜の姫 "001" も体の一部は赤、一部は青っぽく描かれているからです。
また、「叫竜の王子」でもよかったところをわざわざ「叫竜の姫」としたのも、「女神」である「ヘル」になぞらえたとも考えられます。
苦しいですが以上のような理由から叫竜の姫 "001" =「ヘル」だとすると、北欧神話でヘルが死者をよみがえらせる能力をもっていたり、ラグナロクで死者の軍勢をアースガルドに送り込んだりしたエピソードをなぞらえる可能性があります。
つまり、叫竜の姫 "001" も死者をよみがえらせたり、あるいは最終決戦で叫竜の大群を人類に差し向けたりするかもしれません。
とくに、生死を操る能力があるのならば、それはオトナやコドモの老化現象と何かかかわりがあるのかもしれません。
叫竜の姫 "001" =「スレイプニル」?
また、叫竜の姫 "001" =「スレイプニル」と考えることもできます。
こう考える理由は北欧神話における軍馬「スレイプニル」が8本足を有しているように、叫竜の姫 "001" も8本の触手のようなものを有しているからです。
正直この8本の足くらいしか根拠はないのですが、叫竜の姫 "001" がなぜ4本でも6本でもなく8本の触手をもつのかということの理由にはなり得ます。
以上のように根拠はとても弱いのですが、「スレイプニル」がオーディンの愛馬であったことを考えると、『ダリフラ』でオーディンに相当するフランクス博士と叫竜の姫 "001" との間には主従関係がある(あった)のかもしれないと考えることもできます。
また、スレイプニル以外にもオーディンの従者としてフギンとフニンという一対の大ガラスがいるのですが、もし叫竜の姫 "001" =「スレイプニル」ならば、フギンとフニンと同様の比翼の鳥というモチーフを持つヒロとゼロツーが、フギンとフニンに見立てられる可能性も出てきます。
ただやはりどうにも根拠が弱く、憶測としか言いようがありません。
以上のようなことはやはり妄想にすぎないのですが、いずれにせよ叫竜の姫 "001" が『ダリフラ』本編で重要な役割を果たすのは間違いないでしょうから、これからも注目して見ると何かわかるかもしれません。
「グランクレバス」が「ギンヌンガガプ」である可能性について
また、「地下の層」=「地下世界」ならば、「地下世界」へとつながっているであろう「グランクレバス」と北欧神話とに関連はないのでしょうか?
人類解放の鍵となるのが「グランクレバス」と「フリングホルニ」であるわけですが、「フリングホルニ」が北欧神話由来の言葉であって、一方「グランクレバス」は特に何由来でもないというのは、よくよく考えると不自然であるようにも思えます。
「グランクレバス」の「クレバス」とは「裂け目」という意味ですが、北欧神話で「裂け目」に相当する概念は「ギンヌンガガプ」くらいしか考えられません。
「ギンヌンガガプ」とは何か
「ギンヌンガガプ」とは何か、わかりやすいのでWikipediaから引用します。
ギンヌンガガプ(Ginnungagap、ギンヌンガ・ガップとも)とは、北欧神話に登場する、世界の創造の前に存在していた巨大で空虚な裂け目のことである。 日本語訳ではギンヌンガの淵(ギンヌンガのふち)、ギンヌンガの裂け目(ギンヌンガのさけめ)という表記もみられる。
ギンヌンガガプの北からはニヴルヘイムの激しい寒気が、南からはムスペルヘイムの耐え難い熱気が吹きつけている。世界の始まりの時において、寒気と熱気がギンヌンガガプで衝突した。熱気が霜に当たると、霜から垂れた滴が毒気(en:Eitr)となり、その毒気はユミルという巨人に変じた。このユミルは全ての霜の巨人たちの父となり、またのちに殺され彼の肉体によって世界が形作られることとなる。*3
ポイントは、「ギンヌンガガプ」が裂け目であるということと、霜の巨人の父であり原初の巨人であるユミルがそこから生まれたということです。
「ギンヌンガガプ」=「グランクレバス」?
では「ギンヌンガガプ」=「グランクレバス」である可能性はあるのでしょうか、あるいは「ギンヌンガガプ」=「グランクレバス」とすると何かうまく説明できることはあるでしょうか?
まず一つには「ギンヌンガガプ」が世界の始まりのときに原初の巨人、それも霜の巨人を生み出したという逸話は、叫竜誕生のエピソードに重ねることができます。
まず叫竜=霜の巨人というところからして仮説なのですが、仮説の上塗りをするなら、「グランクレバス」が叫竜誕生の地となった可能性が出てきます。
そう考えると、「グランクレバス」と「フリングホルニ」がそろったときに「やつらも土へとかえる」というセリフも、もともと誕生した場所に文字通り「かえる」という意味なのだなと、納得できる気もします。
また、「グランクレバス」から出てきた「手」も世界の元となった「ユミル」の手だと解釈するなら、新OPで「手」(=ユミル)の上にゼロツー(=叫竜を原初にもつ)が座っていイメージや、クレバス=裂け目=女性器=母=すべての元∽巨人の元=ユミルというイメージに説明がつく気もします。
ただこれだとユミルがオーディンに殺されたことと、『ダリフラ』世界では世界が創造され終わっているのにユミル=「手」が生きていることになり、整合性があわないので、あまり綺麗ではありません。
また、そもそも「ギンヌンガガプ」は物理的な裂け目や穴のようなものではなく、「空虚な」ものであるので、そのイメージとの整合性もあいません。
以上のように考えると、「ギンヌンガガプ」=「グランクレバス」とするのには少し無理があるように思います。
「グランクレバス」とは何か?
それでは結局「グランクレバス」とは何なのでしょう?
気になるのは、第15話でゴローがぽろっとつぶやいた「人工物……なのか……?」というセリフです。
このセリフは主に
- グランクレバスは人類が作ったもの
- グランクレバスは人類と似た文明の手によって作られたもの
の2通りに解釈することができます。
1だった場合、あれほどの叫竜が占領した地域にあとからあのような建造物を建てるのは困難でしょうから、もとから人類が建造物を建てており、その建造物か、あるいは地下に叫竜にとって重要な何かがあって、後から叫竜に占領されたと考えられます。
この場合は、例えばそこが超深度採掘にはじめて成功した場所で、堀りすぎたゆえにそこから叫竜が初めて出現したとか、マグマエネルギーが多量に蓄積している場所でここを制圧すると叫竜が生きていくのに必要なマグマエネルギーが足りなくなってしまうとか、そのような例が考えられます。
一方2だった場合、グランクレバスは叫竜の手によって作られたもの、と解釈できるわけですが、叫竜たちが人類からそこを守っているさまから、そこは叫竜にとって人類には占拠されなくない場所であるのでしょうから、やはりマグマエネルギーが多量に蓄えられている場所であるとか、叫竜の築いた文明の中心地だなどと考えられます。
以上のように考えると、1の場合でも2の場合でも、やはり人類と叫竜の間に介在するのは「マグマエネルギー」ではないかと推測ができます。
これからあの「手」の謎も解明されることでしょうし、これからの「グランクレバス」にも注目です。
『ダリフラ』も終盤へ……
長くなってしまいましたが、今回はユグドラシルの「地下の層」と『ダリフラ』との関連について考察しました。
結論から言うと、北欧神話における「地下の層」と『ダリフラ』との間にはあまり関係がないようにも思えます。
もちろん『ダリフラ』の全部が全部北欧神話ではないので当たり前ですし、検証してみた結果あまり類似していなかったという話自体に価値があるように思えます。
ただはっきりと北欧神話由来とわかる「フリングホルニ」が本格的に利用されるのはこれからなので、これからまた『ダリフラ』と北欧神話とで何か関連する事態が起きることがあるかもしれません。
「フリングホルニ」の利用もそうですが、「グランクレバス」の謎など、世界観の謎もこれから明らかになるのかと思うと楽しみです。
残っている大きな話としては「オリオン座」、「細菌」、「オトナ/コドモ」といったところでしょうか。
「オリオン座」をはじめとする『ダリフラ』世界の環境や「細菌」についてはあれからほとんど触れられていないように思うので、これからどのように触れられていくのか楽しみです。
加えて赤い海の存在や半年で季節が一巡しているらしいことなど、あれからはられた伏線もあり、気になるところです。
また最近はフランクスにも乗っていないような気がするので、一度乗ったらもう下りないでほしいです(かっこいいろぼっとみたい(小並感))。
いったいどのような結末になるのか……楽しみです!!
今回もお読みいただきありがとうございました!
<主要参考文献>
『ゲルマン神話【神々の時代】上』ライナー・テッツナー 著 手嶋竹司 訳
『北欧神話』H・R・エリス・ディヴィッドソン 著 米原まり子 + 一井知子 訳
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