<細菌>の病因論
<細菌>*1って何でしょう?
数多くの謎がちりばめられた第10話の中でも、私が最も気になったのは<細菌>でした。
<細菌>はオトナになにか悪影響を及ぼすものなのか、どうして<細菌>を保持するゾロメを部屋にあげたのか、なぜ<細菌>を計測する必要があったのか、そもそも<細菌>という設定はなぜ必要なのか……
今回はそんな<細菌>に関する謎を考察するとともに、そこから見えてくる『ダリフラ』全体の謎に迫っていきたいと思います。
<細菌>は叫竜の常在菌である
いきなりですが、「<細菌>は叫竜の常在菌である」という仮説を立ててみようと思います。
「常在菌」とは一般に「多くの人間が共通して持っているが、ふだんは病気を引き起こさない細菌」のことを言いますが、上記の仮説ではこの意味を拡大して、<細菌>はほぼすべての叫竜に共通して備わっており、叫竜の体内にあるときには叫竜に対して病気を引き起こさないと考えます。
なぜこのような仮説を立てるかと言えば、もちろん例のごとく、そう考えるといろいろなことにつじつまが合うからなのですが、わかりやすく思考の道筋をたどってもらうためにも、まずはこのような仮説に至った理由から始めたいと思います。
理由①:メタ的な視点から見たときの世界観の統一性
理由と言ってよいのかどうかは危ういのですが、私の中での思考の端緒としてもこれが最初なのであえて言いますと、まず一番目の理由は「メタ的な視点から見たときの世界観の統一性」です。
つまり『ダリフラ』という物語を制作者側の視点に立てば、<細菌>は「超深度掘削により発掘されたマグマ燃料とその代償として地殻変動・環境破壊が起こり、突如として叫竜が出現した」という『ダリフラ』の世界観と関わりを持っているはずなのです。
もし<細菌>が地殻変動や環境破壊、叫竜などと一切関係ない「細菌」であったならば、そこには「必然性」や「一貫性」がありませんし、ご都合主義に陥りかねません。
また、物語をより盛り上げるためにも、<細菌>が世界観と一貫性のある形で生じ、それがさらに今後の伏線になるような生じ方であったならば、より作品に深みがもたらされるとも言えます。
以上のことはたしかに憶測にすぎないのですが、多くの方々が(<細菌>ってマグマ燃料を掘り出したこととか叫竜と関係あるのではないか?)などと思われたのではないかと思います。
以上のような理由から、少し苦しいのですが、<細菌>がダリフラの世界観に関係があるということを前提にして話を進めていきたいと思います。
理由②:<細菌>が生きられる環境
超深度掘削により発掘?
理由の2つ目は「<細菌>が生きられる環境」です。
細菌がダリフラの世界観と関係があるならば、<細菌>の発生源としてまず地中、それもかなり深度の高い地中が思い浮かびます。
つまり<細菌>は、人類が開発した超深度掘削によって、それまで到達していなかった深度の地中に潜在していたものを掘り起こすことで発生したと考えられるわけです。
ただ結論から言うと、<細菌>が地中から発生したというのは考えづらいです。
温度に耐えられない?
<細菌>が地中から発生したとは考えづらい理由は、<細菌>が温度それ自体かまたは温度変化に耐えられないと考えられるからということにあります。
現実世界の掘削の最新記録は日本では6,310m、海外では12,261m*2ですが、「超深度掘削」というからにはこれ以上掘っているはずです。
また、「マグマ燃料」というネーミングからしても、地中のかなり深くまで、或いはマントルに到達するくらいまで掘っているかもしれません。
一般的にマントルの深さは地上からは30~70kmほどと言われていますが、マントルの上の層である地殻でもマントルに近い下部では1000℃になることがありますし、火山地帯といえる日本では尚更その温度は高くなるはずです。
もちろん高温に耐えうる細菌、いわゆる好熱菌も存在しますが、現存する細菌の限界生育温度は "Methanopyrus kandleri" の122℃で、とてもそのような高温度には耐えられません。
急激な温度変化に対する温耐性
もちろんフィクションなので、<細菌>はそのような超高温とも言うべき温度に耐えられるのだと考えることもできます。
しかしそのような超高温に耐えられたとしても、コドモという体温数十℃程度の生物が保持するにはあまりにも温度環境が違いすぎます。
<細菌>がそのような生育環境の急激な変化に耐える菌というのはかなり無理がありますし、仮にそのような温度変化にも耐えられるのなら、あまりにも強力な細菌すぎてそれだけで人類を滅ぼしかねません。
以上のような理由から、<細菌>が高深度の地中から発生したと考えるのは難しいと言えます。
叫竜ならば……
<細菌>の発生が『ダリフラ』の世界観と関連しており、超深度掘削により高深度から掘り起こされたと考えづらいのならば、あとはもう叫竜から発生したと考えるほかありません。
例えば難点だった温度の観点から見ても、本編での生態を見る限り数百℃を超えるような超高温ではなさそうですし、叫竜が生物であるからにはそこに常在菌が住んでいても不思議ではありません。
叫竜ならば、<細菌>が生きる環境としてあり得る、もしくは適切であると考えられるのです。
叫竜の出生経緯はまだ一切語られておらず、それが自然から生まれたのかはたまた人工のものなのかすら定かではないのですが、ひとまず<細菌>は叫竜の中で生きていたと考えれば、<細菌>の生育環境に説明にはなります。
また、<細菌>が叫竜から発生したと考えれば、いろいろなことにつじつまが合い、それが逆に<細菌>の発生源が叫竜であることを裏付けているようにも思えるのですが、このことは後でまとめて考察していこうと思います。
理由③:間接的な観測
3つ目の理由は「間接的な観測」です。
第10話では、ゾロメが上の画像のように棒状のもので細菌の量を測定されていましたが、現実ではこのように棒状のものを当てるだけで間接的に細菌の量を測定するのは一般的に不可能です。
しかし裏を返せば、<細菌>がそのように間接的に測定できるからこそ、それが叫竜の観測にも役立っているのではないかと考えられるのです。
CFU=コロニー形成単位
第10話でゾロメを計測した際、計測器のようなものに表示されていた "CFU" とは、細菌の量を計測する際に用いられる「コロニー形成単位」のことであると考えられます
"CFU" とは、簡単に言えば、細菌は小さすぎて1つ1つ数えるのが難しいので、ある程度培地で培養させてできたコロニー(細菌の集合体)を代わりに数えようということで用いられるようになった単位なのです。
例えば、第10話の測定器に少し似た検査機器で、大腸菌・大腸菌群&一般生菌の検査を行うために開発されたニッタ株式会社の「迅速微生物検査用ルミノメータ」というものがあります。
この「迅速微生物検査用ルミノメータ」でも、まずは細菌があると思われる部分を採取して、それから採取した検体を溶液に溶かし、その溶液内で細菌をある程度培養して、それを測定機に挿入して使用します。


あるいは第10話の測定器と同様にレベル表示があるパナソニック株式会社の「細菌カウンタ」でも、まず採取器具で検体を採取して、それをカウンタ内に入れて培養させ、細菌の量を測定します。
このような例からもわかる通り、"CFU" という単位を使うときには、まず細菌を採取して、それをある程度培養させてコロニーを形成させる必要があるのです。
したがって、第10話でゾロメに施されたような間接的な方法では、本来コロニー数など測りようがないわけです。
それでも測れるということは……
しかし逆に、第10話のように間接的に測定できるということは、<細菌>には間接的に測れるなにかしらの特徴があるということを物語っています。
そこで考えられるのが、<細菌>は電波のような何かを発しているのではないか、ということです。
つまり、第10話の測定器(特に棒状のもの)は<細菌>が形成したコロニーが発する電波のような何かを受信し、それを "CFU" に換算しているのではないかと考えるのです。
そしてこのような観測法をとっているとすれば、叫竜の出現を感知するシステムにも説明がつくのです。
叫竜の感知
第11話で叫竜を観測した際、叫竜の中心部から円形の波形のようなものがモニターに映し出されているのがわかります。
これが<細菌>の出す電波のような何かだとしたらどうでしょうか。
つまり、叫竜には電波のような何かを発する<細菌>が備わっており、プランテーション内のレーダーがこれを探知することで、叫竜をいちはやく発見しているのではないでしょうか。
例えば、第9話の叫竜は2000mほど離れたところに観測されたのですが、それほど離れた叫竜を人間か機械による目視でこれを確認したとすればそれは原始的で非効率的なシステムですし、超音波の跳ね返りなどで観測するというのも荒廃した大地による障害物と叫竜を見分けるのは困難だと考えることができます。
もちろん普通に人工知能などで見分ける技術などが確立されていることも考えられますし、叫竜の体の仕組みさえわかれば超音波や電波の跳ね返り具合によって見分けることも不可能ではないと思われるので一概には言えません。
ポジティブパルス/ネガティブパルス
また、『ダリフラ』には「ポジティブパルス/ネガティブパルス」という信号が存在します。
フランクスが叫竜のエネルギーを利用しているのではないかということはずいぶん前の考察で述べました。
もしも叫竜に<細菌>が備わっており、その<細菌>が電波のような何かを発しているとすれば、叫竜の機構をそのシステムに応用した可能性があるフランクスの操作に必要な「ポジティブパルス/ネガティブパルス」も、叫竜の<細菌>の発する電波のような何かを応用したものだと考えることができます。
これを主張するにはあまりに仮定が多すぎるのですが、ただ一応筋は通ります。
以上のように、かなり弱い理由ではありますが、<細菌>の間接的な測定方法も、叫竜の感知方法や「ポジティブパルス/ネガティブパルス」などを考慮すれば、<細菌>が叫竜の常在菌である理由になり得ると考えられます。
以上をまとめると、
- メタ的な視点から見たときの世界観の統一性
- <細菌>が生きられる環境
- 間接的な観測
という3つの理由から、「<細菌>は叫竜の常在菌である」という仮説が考えられるということになります。
最後の「間接的な観測」に関しては、「<細菌>は叫竜の常在菌である」という仮説から言えることに近いのですが、<細菌>の測定方法が現実から見て奇妙なことはまぎれもない事実なので、一応理由として書きました。
ただそれだけにとどまらず、「<細菌>は叫竜の常在菌である」という仮説を立てると、これまでのダリフラの謎、ヒロが第1話でストレリチアに乗れた理由やヒロの青い心臓の理由、ゼロツーの犬歯が伸びた理由などを解明することにつながるのです。
かなり長くなってしまいましたので、「<細菌>は叫竜の常在菌である」という仮説から言えることについては<後編>で述べていきたいと思います。
<後編>↓
<ダリフラ考察まとめはこちら↓>
*1:『ダーリン・イン・ザ・フランキス』第10話「永遠の街」で存在が語られた「細菌」のことを以下では<細菌>と表記します。